第14話 閑話 龍王

飛龍フェイロン様、どこに行かれていたんです?」

「なんだ紫苑シオンか、こんな時間まで待っていたのか?」


 樹の木から王宮にある自身の部屋へと戻ってくると、側近の紫苑が部屋で待機していた。


 どうしたと言うのだ? こんな時間に。


「樹様のところに行かれていたのですか?」

「うん? まっ、そうだが……」


 別になんだ普通の事なのに、樹の事を聞かれると何だかあの場所におる女子……翠蘭の事を思い出し、少しだけ動揺する。

 なんだ? この気持ちは?


「最近頻繁に樹様のところに行かれていますよね。今までは三ヶ月に一回程度でしたのに、樹様に何か問題でもありましたか?」

「べっ、別に何もない」


 やましい事など何もないと言うのに、なぜか動揺し言葉が詰まる。

 そんな我の姿を冷静沈着に見ている紫苑。相変わらず喰えぬやつよ。


「して何のようだ?」

「ええ。最終の番候補が八十五人に決まりましたので、そろそろ一人ずつ審査すべきかと思いまして。日程を組みたいと思います」

「ああ……そうであったな」


 番か……自分の事なのに、全く実感がわかぬ。

 あの中に…… 我の番が本当にいるのだろうか?

 星読み師である公明を疑うわけではないが……。

 

 そんな事を考えていると、ふと翠蘭のことが頭をよぎる。

 我の親友である樹の場所で出会った不思議な女子おなご

 あの人嫌いの樹が唯一招き入れた人物。

 幼馴染であり龍貴妃でもあった、秀凛シュウリンでさえ樹に会えなかったと言うのに。


「…………様! 聞いていますか?」

「ん? きっ、聞いておる」


 しまった。ついつい別の事を考えて、話を聞いておらなんだ。これがバレると紫苑はぐちぐちと面倒くさいからのう。


「では、番候補たちに龍王様とあうための準備をして頂き、三週間後から審査を始めようと思います。一番初めに会う女性は、龍王様が褒美をつかわすとおっしゃっていた女性、翠蘭でよろしいですね?」


「え? すっ、翠蘭?」

「何を驚いて? もしや話を聞いてなかったのですか?」


 紫苑が眉をピクリと動かし我を見る。


「問題ない! 分かった。もう話がないのなら終わりだ。我はもう寝る」


 紫苑から翠蘭の名前を聞き、変に動揺してしまう。

 それを隠すために寝室に向かって歩く。


「……はい。では失礼します」


 紫苑が頭をさげ部屋を出て行った。

 ……ったく隙のない男よ。


 だがそうか、三週間後に我は翠蘭の前に龍王として会うのか。

 我が龍王だと言うタイミングを逃してしまったゆえ。

 我と会えばびっくりするのでは……。


「くくっ」


 驚く翠蘭の姿を想像し、ついつい顔がほころぶ。


 だが……龍王の事をよく思ってなかった様に思う……龍王だと言わなかった我を軽蔑するのではなかろうか?

 そう考えると、龍王として会いたくないようにも思えてきた。


 樹の所で翠蘭と会う時間は、なんとも言えない心地よい特別な時。

 あの特別な時間が、気まずくなるのは嫌だ。


 人に対して、こんな気持ちになったのは初めてだ。

 まだ数回しか会ったことがないのに。

 不思議なものだ。


 三週間か……それまでに龍王のことをよく思ってもらわねばならぬな。

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