十四人目 忌み名
つけてはならぬ名前がこの世には存在します。そう。つけてはならぬ名前です。
私の家では水にまつわる名をつけることは禁止されておりました。
水の神様を怒らせてしまったそうで、許してもらう代わりに水にまつわる名をつけないように言い含められてきました。
幼い頃、人形に名前、つけませんでしたか?
そうなんです。人形でさえ、駄目でした。一度、つけようとして怒られましてね、以来、物に名前をつけるのは苦手になってしまいました。
そして、伴侶となる人もまた、水にまつわる名の人と共に生きることは出来ません。
とにかく、水にまつわる名だけが駄目なんです。
水もそうですが、清も駄目です。さんずいがありますからね。水にまつわる字って、結構あるんです。
名前だけで良かったなんて昔は思っていました。
ふふ。
好きな人が、出来る前は。
和泉さん、という人でした。笑顔の素敵な方で、でも、お付き合いは出来なかった。
馬鹿なことを、と思うでしょう。
私もその時はそう、思っていました。その時は。
ええ。どうなるか分かったから、そう言えるのです。
結婚を前提にお付き合いしていた人がいましてね、もう死んでしまったけど、良い人でした。
本当に良い人で、兄を殺した悪人でした……。
あの人は特高でした。
私の兄を調べていたのね。偽名で私に近づいたの。本当に馬鹿な人……。調べたなら、忌み名のことだって分かったでしょうに……。
あの人、私の目の前で溺れて死んだの。
山の上で、溺れて死んでしまったの。
その時初めて、忌み名の恐ろしさを知りました。
そして、先祖が怒らせてしまった水の神様が、まだ家を許してくださらないことも同時に思い知らされたのです。
私はこれから先、誰に嫌われようとも、水にまつわる名の人と関わることはないでしょう。
だから。✕✕さん。
孫のことは諦めてくださらないかしら?
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