第39話 希望のために

  フィークスは動けなくなっていたライオットを起こす。

「怪我はないか?ライオット」

「ああ、フィークスこそ無事でよかった」

「おいおい、俺たちを忘れてねえか?ライオット」アッジが突っ込む。

「忘れるわけないだろ。お前たちの最近の活躍は本当に驚かされてる。あの巨人が襲ってきたときから、もう俺なんかよりすごいんじゃないか?」

「そんなことはねえけどよ、」照れくさそうにする二人。

「大丈夫ですか皆さん!今回復します」

負傷したほかの人はエルダが一斉に回復した。ほかの仲間たちも続々と駆け付け仲間たちの援護に回った。

「久しぶりだなゲイルの兄ちゃん」

「ルチェス!お前も怪我が治ってフィークスと一緒にいたんだな」

「まあな。それにしてもこんなにたくさんの人が、何人くらいいるんだ?」

「百人と少しだ。これ以上前線を下げられない。主力は温存しているんだろう。だが、こうなれば話は別かもな」

「さて、ここからは俺も弓で攻撃していくぜ」

「お前は調子が上がるとすぐ短剣で特攻するじゃないか」

「へへっばれたか」セティやトーマスもフィークスたちのもとにやってきた。

「フィークスの攻撃はやっぱり有効みたいね」

「龍神様の剣で龍神様の体を斬るというのもなんだか複雑ですが、今はそんなこと言っていられませんね」

「さあ!ここから反撃だ!」フィークスの声とともにこの場にいる全員が一丸となる。

「グオオオオ!!」ギルハーツも体勢を立て直して咆哮を上げる。その勢いのまま口から高威力のブレス攻撃を仕掛けてくる。

「させるか!」セティ達魔法使いが防御魔法を張り、これに立ち向かう。双方はぶつかり合い、力は拮抗して空中で爆発した。と同時にフィークスたちが突撃する。大勢で固まるのではなく、小さなグループになって行動した。ギルハーツも一つ一つを見て攻撃するのは不利だと判断し、強靭な尾であたりを薙ぎ払ったり、突進攻撃をしたりする。もちろんフィークスたちの中には攻撃を食らってしまうものもいる。しかし、攻撃をされてもエルダ達の回復によって瞬く間に戦線へと復帰、このままいけば、倒すことができるかもしれない、そう思った時。

「ウルルルル、」突然ギルハーツの雰囲気が変わった。先ほどのような

暴れまわってめちゃくちゃな状態ではない。冷静にこちらを見て次の手を考えているようだった。

「ど、どうしたってんだ?」様子の急変に驚くハック。

「攪乱する作戦をとったことで、かえって冷静さを取り戻したというのか?」さっそくギルハーツは物理攻撃をあきらめ、自分の周囲に無数の魔法を生み出す。火属性に光属性、闇属性に竜属性、それだけじゃない。異なる属性を持つ10個の玉がそれぞれに巨大化していく。

「あれはまさか、十元素覇弾⁉」人間では三属性を司るのが通常限界だが、モンスターはその限りではない。十元素覇弾は古い伝説にある魔物が使ったとされるその名の通り十属性すべてで攻撃する技だ。

「来るぞ!いったん離れろ!」もちろん全員が退避を始めていたがそれでも間に合わない。すさまじい破壊力の魔法があちこちに降り注ぐ、あるところは燃え落ち、あるところは凍り付き、あるところでは地割れが起こった。

「なんて威力だよ、」

「弱ってるって言ってもやっぱり強い」ちりじりになった人間たちの中でフィークスに狙いを定めた様子のギルハーツ

「ギギギ、ボヴ、グオオ」元のギルベルトの感情が込められているだけあって忌まわしき希望をずいぶんとよく感知しているようだ。間髪入れずに再び魔力をため始める。赤黒いエネルギーの塊から邪悪な表情が浮かびあがる。竜属性の上級魔法、ドラグノヴァだ。このままでは被弾は避けられない。緋龍のように獰猛なアギトを開いた魔法に今度はフィークスが食いちぎられそうになる。その口がフィークスに届く一瞬前、その口に入りきらないほどの巨大な業火球が放り込まれた。炎の上級魔法、フレアである。二つの魔法は互いに押し合い。ついには、その場で爆発した。炎のおかげで生まれた被弾するまでの間に素早くアッジとウスタがフィークスたちを救い出し、その場は難を逃れた。

「大丈夫か?」

「大丈夫、二人ともありがとう。それとさっきの魔法、ありがとうセティ。助かったよ」フィークスはセティの方を向く。

「あなたのためだけじゃないから。まあ、新しい技を使う練習としては好都合だったかもね」少しだけ満足そうな笑みを浮かべるセティ

(こっそり練習してたもんな。こんな土壇場で使うなんて流石セティだ)

ルチェスが回復するまでの間、フィークス以外の仲間たちはロミラの宿に滞在していた。ブレイミーには王国が運営する魔法に関しての図書館や魔法実験場などの魔法使いを育成する環境が整っており、セティはそこで毎日練習をしていたのだ。フィークスが一緒に行った時にはもっと小さな子やフィークスたちと同年代の子供たちがちょっとした魔法術や初級魔法を練習する中でひとりだけ馬鹿でかい炎を生み出すセティはなかなかシュールなものだったが、強敵と戦う中で自分も強くなりたいというセティの強い思いをフィークスは感じていた。

 先ほどまで魔法をどんどん打っていたギルハーツも少しばかり攻撃の手が緩んだ。こちらの出せる最大火力を叩き込むには今しかない。

「フィークス、緋龍よ!」

「わかった!ここで畳みかけよう!」

「俺たちも行くぞ!」ライオットが集まってきたみんなに声をかけた。

「ルチェス、お前も行ってこい。後ろは任せろ!」ゲイルが背中を押す。

「わかった、ありがとう!」ルチェスも短剣で加わり全員が攻勢に入る。力をためているギルハーツはまだ大きく動けない。

「ジェイクのためにここで畳みかける!」トーマスがまさに一番槍で会心の一撃を叩き込む。ほかの者たちも武器や魔法で攻撃をする。猛攻におされ、さらに体制を崩すギルハーツ。ちょうどその時、二人の魔力も最大威力に達した

「「食らえ!緋龍!!」」赤い竜がギルハーツへと迫る。あっという間に炎がその身を包み、爆発した。

「やったか!?」ハックが様子を見る。爆発の煙から姿を現したギルハーツ。いまだに意識があるようだ。そこへ畳みかけるようにフィークスが切りかかろうと突進する。しかし、それを待っていたかのようにギルハーツは起き上がり、その巨大な爪でフィークスを攻撃した。

「ぐああ!」すでに飛び上がっていたフィークスは耐えることができずはるか後方に吹き飛ばされる。

「フィークス!」セティの声をうっすら聴きとりながら地面にたたきつけられたフィークスは目を閉じた。

 「目覚めよ、目覚めよフィークス」暗闇の中で何者かがフィークスに語り掛ける。体は重いがが話すことはできた。

「ネ、ネオハーツ」

「我の魂がベルエグになじんだ。今ならばこの力を使えるぞ」

「あぁ、けどもうダメだ。体が動かない」弱音を吐くフィークス。暗闇の中にネオハーツの声が響く。

「フィークス、お前はこれまでたくさんの苦しみに見舞われてきた。この剣の中で色々と感じさせてもらった。すべてを失ってから誰にもそんな思いをさせたくないという思いも。そして、これまでの旅で守りたいものもできていたな。その思いを、希望を遂げるため我も全力を出そう」その言葉を聞くとフィークスが手に持っているベルエグから光が溢れ出した。それと同時にフィークスに力が湧いてくる。まだ戦える、まだ戦わなくちゃ。もう誰も悲しませないために、みんなの希望を守るために!始まりの希望はその目を開き、再び脅威に立ち向かう。

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