籠中艶妻記~大貴族の娘と結婚したら、美しい上に聡明で、夫の豪商がすっかり夢中になってしまう話

高田正人

第1話:婚姻



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 淘圓来(タオ・ユエンライ)が私の名である。了理夏(リャオ・リーシア)の夫となった人間だ。かつて宮廷で一大勢力を築いていたものの、今は没落した了家が、水運によって財を成した淘家を頼る形となった婚姻だ。私たちの暮らす壮国は、古来より龍神に守られているという伝説がある。皇帝は龍王であり、代々龍王が玉座から国を治めているのだ。


 この国の民は皆、龍神の加護があると信じて疑わない。だが私はその龍神を信じてはいない。我が淘家は元々は南部の豪族だ。伝説では龍神はその身を使って八つの州を束ねたとされているが、南部は征服されたようなものだ。むしろ南海に林立する小国家と淘家は縁が深く、交易が盛んであった。そんな淘家に降ってわいた、リーシアとの婚姻だった。



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 淘家の本家となる屋敷で、私とリーシアの結婚式は行われた。花婿である私の隣に、花嫁であるリーシアが座っている。年端もいかない少女が家の都合で押しつけられるのではなく、きちんと成人した女性であることに私は安堵していた。何はともあれ、私たちはこの日から夫婦となるのだ。改めて私はリーシアに目をやる。


 彼女が身にまとっているのは、黄で精緻な模様が描かれた赤の花嫁衣装だ。不老山の天綱蚕の吐く最上の絹を用い、さらに染料は維微州の真紅花を使った贅を尽くしたものに間違いない。髪飾りに使われている色とりどりの玉はいずれも古流の職人によって丁寧に形作られ、さらに孔雀や鶴が象られた金銀の細工は、ため息が出るほど精緻だ。


 彼女が隣に座れば、淘家の三男として恥ずかしくない装いをした私の花婿としての衣装が霞むほどだ。恐らく了家としては示威を目的として彼女にこれを着せたのだろう。没落したとはいえ、我々はこれだけの資力をまだ持っている、と私の家と集まった者たちに示したいのだ。そう考えると、まるで彼女は花嫁衣装を着させられているようなものだ。


 リーシアは美しい女性だった。すらりとしていて背はやや平均よりも高く、撫で肩でどこもかしこも細身だ。銀糸をそのまま梳いたような長い銀髪が異国めいていてよく目立つ。細い眉とその下の化粧によって引き立つ切れ長の瞳。朱色の小さな唇。装飾によって覆われるのではなく、むしろ彼女の美貌はよりいっそう引き立てられている。


 リーシアは凜とした表情を崩さず真っ直ぐに前を見ていた。了家の娘というからには、さぞかし傲慢な娘が来るかと思いきや、想像よりも遙かに可憐で、現金な話だが嬉しくないといったら嘘になる。私の視線を感じたのか、リーシアがこちらを見る。目を逸らさないでいると、呆れたように小さく息をついてからまた前を見た。結婚式はまだ続く。



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 かくして、私とリーシアの婚礼は無事行われた。まだ私が幼かった頃、皇帝の居城でリーシアを一度だけ見たことがある。庭園で行き交う役人たちを見ていた気の強そうな少女が、幼い日のリーシアだった。まだあの頃は了家も今ほど落ちぶれておらず、彼女は侍女たちを従えて座っていたが、大変に聡明そうな印象を受けたことは印象に残っている。


 婚礼の席に現れた彼女が美しく装い、堂々とした態度で挨拶を述べたのを思い出す。その視線は鋭く、まるでこちらの内心を見透かすようなものだった。伝統的な華やかな赤の花嫁衣裳を纏った彼女は美しかったが、同時にわずかな虚勢を感じる。確かに了家の凋落ぶりを考えれば、伝統にすがるのは無理もない。清貧に安んじるのは業腹だっただろう。


 婚礼の席に集まった貴族や豪族たちは、形としては私たちの結婚を祝福した。夫である私には、少しでも淘家の財力にあずかろうという魂胆から。そして逆に、妻のリーシアに対しては、かつて権勢を恣にした了家のなれの果てを見て溜飲を下げるという面もあっただろう。正直な話、私はこのような婚礼を望んではいなかった。



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