偽りの家族(策略と愛憎劇の果てに……）

第41話 スホのマンションに侵入した犯人！

　2014年4月初旬、北朝鮮北朝鮮公演から帰って来てから、また同時期に長年のパトロンで愛人のロアと別れてからと言うもの、誰かに付け狙われ、挙句にはマンションに勝手に侵入されてスホは不安に苛まれている。

　あのマンションに勝手に侵入して、ベランダ伝いに消えた20代後半~30代前半の青年は誰だったのか？

　手掛かりも掴めぬまま月日は過ぎて行った。

　あの幸子を散々オモチャにした挙句、金儲けの道具にした最低の男イケメンジゴロ、ドハは1994年に日本での功績を認められて北朝鮮に戻って、以前から在籍中だった秘密警察（国家保衛省）に所属。

　そこで幹部に祭り上げられていたのだが、謀反の罪を着せられて命辛々脱北して韓国に渡っていた。そこにはロアの手引きが有っっての事だった。

　元々輸入雑貨商社ウエ（日本語は友愛）コ－ポレーションの社長に据えてくれたのは、あの時の権力者で顔の利くドハのお陰なのだ。

　それでも謀反の罪で脱北した男を幹部にすれば直ぐに捕まるのでは？

　いえいえ背乗りして全く別人に成り済ましていますし、顔も整形しているから分からない。いつ命を狙われるか分からないから、正体を隠さないと………。

　まあ～？それでもいつバレるか分からないが？

　だが、最近はロアは、あの女を自由自在に操るジゴロ（岩田忠士）ドハと、四六時中一緒にいる事から、また寄りを戻して夫婦同然の関係になっているのだと極一部の知り合いの間で噂になっている。

　その為、極一部の人物にはドハだとバレている。声と歩き方、表情などから何となくだが……。

　それでも……ドハとは仕事やプライベートでは、頻繫に一緒の所を目撃されているのだが、同居してはいないようだ。

　輸入雑貨の仕事を以前やっていたので。日本にも多くの顧客を抱えていたので、顔が利くのは事実なのだが、それにしても……輸入雑貨の仕事から手を引いて、かれこれ10年近くも経つ只の一初老の男を、今更何の根拠が有って幹部に据えているのか？

　それは……あれだけ、お世話になったドハをどうして放って置けようか、窮地に陥った今この時こそ、真っ先に助けなくてどうする……。

　そして……それより何よりロアが、高級マンションで一緒に生活している男で、スホと同年代の男、20代後半～30代前半のKポップスタ－のような華やかな男は一体誰なのか？

　実はロアの息子ドヒョンだったのだ。

　◆▽◆

　2015年現在、韓国と北朝鮮は中国に次ぐ貿易国。

　北朝鮮は鉱山などの資源を多く有する｢鉱山開発｣こそが超有望な北朝鮮ビジネスだ。そんな事も有り中国や韓国との貿易が行われている。

　輸入雑貨商社ウエコ－ポレーションは、北朝鮮国営企業なのだが、近年では実質上民間企業と言って良いほどの企業に成長している。上層部の幹部たちの取り計らいにより、企業方針は全てロア任せ。自由に伸び伸びと韓国でロアの手腕で伸びてきた企業。

【一定量の物資を上納するよう求めるが、残りについては適宜、使用することを認めている。大企業は金星日政権を支える柱になっているという。税金を払ってくれるばかりか、入手困難難な物資を製造販売してくれるからだ】

　北朝鮮側としても、下手に口出しして売り上げに支障が有っても困る。要は企業を発展させ盛り立てて北朝鮮に送金してくれれば良いのだ。

　実質上の民間企業と言っても過言ではない。ゆくゆくは息子ドヒョンを社長に据えようと画策するロア。

　以前からも偶には顔を出していたのだが、やってくるのは金の無心。ロアの会社の社員だが、まだ若輩のドヒョンは収入も微々たるもの。

　スホが居なくなった今、現在住んでいるビラ（日本のアパ－ト）をさっさと引き払って、この豪華なマンションに転がり込んで来た。

　それではあのスホのマンションに侵入していた男は誰なのか？

　それはロアの息子ドヒョンだった。

　何をしていたのかって？

　それは今尚、スホの事を忘れる事が出来ないロアが興信所を使って調べさせた結果、スホの新しい居場所が分かり、そのマンションにミレ自動車社長ご令嬢ジアンの姿が度々目撃されていた。

　ジアンはスホとは最近は特に付き合いも濃密になってきている。それはそうだろう。やっとロアとも別れられて、後はチュェ社長に2人の間を認めてもらうだけの状態。夫婦同然の2人なのだ。

　その為午後2時ごろにスホのマンションに向かい掃除、洗濯、食事の準備に大わらわのジアン。

　興信所の調べで、ジアンがスホのマンションに現れる時間を知っていたロアが、息子ドヒョンに頼んだのだ。

「私が応援している今一番勢いのある韓流スター、キム・スホに入れ揚げ、勝手にマンションに出入りしているジアンという女を、もうスホに近づけないようにコテンパンにやっつけて欲しいの。その為だったらかなり手洗い事しても構わないから、大切な商品に手を付ける女は容赦しないから……」

「そんな事したら僕が捕まっちゃう！」

「2階だからベランダ越しに逃げなさい！」

　ドヒョンは韓流スタースホに付きまとう女退治の為に、あの日マンションに向かい侵入していた。あいにく、あの日はジアンは体調不良の為、愛するスホの元に行く事が出来なかった。

　良かった！良かった！不幸中の幸い。

　それでもロアもやり過ぎ！

　何故そんな事を………？

　それはそうだろう。10年近く一緒に生活して来た仲、そう簡単には諦めきれない。また散々貢ぎ十分すぎるほど尽くして来た。

　生活に困窮していたスホを窮地から救い出し、今の地位まで押し上げた自負がある。今更…易々と身を引く事など出来ない。

　それだけスホを深く愛しているという事なのだ。

(10年近くも愛して来たスホを、昨日今日現れた新参者に奪われてたまるものか？）

　ロアの頭の中は悔しさで一杯。

　一方のスホはロアの事を、支援してくれる大切なスポンサーにして、金の為仕方なく関係を続けて来たパトロンとしか思っていない。

　両者の見解には大きな隔たりがある。いつまで経っても双方の、落としどころが見つかる筈がない。

　警察の調べではオートロックの暗証番号が完全に知られていて、極身近な人物の犯行に違いないとの見解なのだが、それでもロアが暗証番号を何故知っていたのかという事だ……？

　それはスホが出ていった後、鍵のかかった机の中に、いくつもの暗号が記録されていた。それを一つづつ試した結果暗証番号に辿り着いた。

　それでも……確実にマンションの暗証番号か、最初は不安だったが、案外早く暗証番号に辿り着いた。