第29話 白頭山旅行
白頭山旅行の丁度あの日は、本丸御殿からも相当数の常駐幹部達も重要会議と視察の為出払っている。また警備体制も若干手薄になっている。
あくまでもこの国の王様を守る事が一番重要な事。主の出払った御殿に警備の必要性があるのだろうか?
あの晩、秘密兵器製造工場に性能や完成度の視察の為に、向かっていた久美子の側近達の姿は、全くと言って良いほどこの邸宅にはない。
また……久美子の別宅も警備が若干手薄になっている。
この本丸御殿から何百キロも離れた基地の施設に、視察を兼ねた重要会議に向かう為に側近達は皆出払っている。
「一緒に白頭山に行きませんか?丁度シーズンになる手前の6月下旬、観光客もまばらなこの時期だからこそ、白頭山に出掛けましょうよ」と声を掛けて来たのは嫁のジウだった。
「本当ですね。今の時期なら気楽だわね」
「白頭山旅行に出掛けましょうよ!」と嫁のジウに促されて上機嫌。
首都平壌から車と、後は歩きで10時間位掛かる為、まだ深夜に邸宅を出ようとした久美子。
何故この日にしたかというと、いつもは警備が厳重で出歩くのにも一苦労。たまたま、その日は重要な会議が有る為、侍従達はいない。
何も気心知れた嫁と出掛けるのに何の遠慮が有ろうか。
コッソリと出掛ける時は、変装をして出掛けるつもりでいたので、この日にしたのだ。
星日が亡くなってからと言うもの、銃弾で襲撃されたりで散々な目に合っている久美子には、すっかり侍従達の監視の目が厳しくなり、息が詰まりそうだった。
そんな時に、日頃から何かと気を利かせて孫の正優を見せに、チョクチョク顔を出してくれる嫁のジウから「白頭山旅行に行きましょう」と声を掛けられた。
まだこの時は、久美子を亡き者にしようと目論み、ライフル射撃事件に、ジウ一家も絡んでいる事など努々思っても見なかった。
首都平壌から車と、後は歩きで10時間位掛かる為、まだ深夜に邸宅を出ようとジウと約束したにも拘らず午前1時を過ぎても現れないジウ。
こんな深夜という事もあり、睡魔が襲い久美子はうつらうつら眠り掛けている。
すると久美子の部屋のドアを静かに開けて、忍び足で久美子に近づく人影が……?
こんな深夜に一体誰???
日頃は久美子の護衛木村が夜を徹して久美子を守っているのだが、あいにく今日は重要会議で出払っている。
また…久美子も愛する木村は別として、息が詰まりそうな鬱陶しい御付きたちがいない開放感と、何とも心強い嫁のジウと白頭山旅行に出掛ける楽しみで頭の中が一杯。まさか嫁のジウが刃向かう等想像も出来ない事。
それはそうだ。あんなに優しい嫁と、清々しい雄大で美しい自然と湖を堪能出来るのだから……。
朝鮮半島最高峰である白頭山(ペクトゥサン)山頂の青々としたカルデラ湖など、美しい自然が見事で神秘的な神々しい景色を堪能しようと、朝からそれはそれは有頂天。
白頭山旅行に、お気に入りの嫁ジウと行く喜びで頭の中が一杯。
その為今日は「深夜の見張りは要らないから」と早々に引き払わせていたのだ。
信頼する嫁ジウと深夜に出掛ける約束をしていた為に、御付きがいては出づらいのもあり、さっさと引き払わせていた。
うつらうつらしている久美子の背後から……またしても久美子の命を狙う影……?一気に久美子の首に紐を巻き付け、力強く ””ギュッギュッ”” と締め付けている人影が……。
久美子は意識が朦朧とする中、薄っすらと見覚えのあるその顔に、驚きと憤りを隠せない。もう意識も混沌として記憶も薄れて行った。
「お前は………?キキ木村???嗚呼————!何という事を……何故お前が私を?」そこに嫁のジウが現れた。
「オオオオオオお前は……ナナッ何故だ?ユユユ許せぬ。絶対に!何でこんな事を?」
「ウフフフフフ!ウフフフ!あなたのせいで、私の伯父ジウンが粛清されたのです。ああああ……許せない!我が家は伯父ジウンが粛清されてからというもの、悔しくて悲しくて夜も眠れない日々が続いていたのです。そんな時にハユン妃一派のトップに君臨していた『第一書記』ジウンの家族である我々に、満生の面倒を見て欲しいとの要請があり、暫くの間面倒を見ていたのです。そして満生を手懐けて誘惑する任務を仰せ付かったのです。そしてこの国の王子を身籠ったのです。それもハユン妃一派の策略です。私達一般人は社会の流れに沿って生きて行くだけの事。恨みつらみが有ったのでハユン妃一派に加担しただけの事。ハユン妃一派は満正を殺害する気はさらさらありません。女腹のハユン妃が折角授かったこの国の次期王様を殺害しようなど絶対に無いのです。あなたが亡くなった後に王様に据えて思い通りに、この国を支配したいだけの事。私たち家族は伯父ジウンを殺害された恨みから、ハユン妃側に付いたのです。そして邪魔なあなたを殺す事が最大の任務だったのです。死ね————!」
そして久美子は息絶えた。
木村が何故こんな事を……?
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