第21話 母との再会!
『2014年4月1日、北朝鮮の最高指導者である金満正(キム・マンジョン)朝鮮労働党委員長と、その母にして北朝鮮を裏で牛耳っている裏の最高権力者久美子様(お部屋様・実質上の上皇后様)と満正の妻イ・ジウ氏が、韓国のKポップ歌手らが出演した珍しい公演を観賞しました。北朝鮮の国営・朝鮮中央通信(KCNA)によると、金氏御一行様は公演に深く感動したと言います。2度の公演に、10組以上の出演者が参加しました。北朝鮮は今年初めに韓国で行われた冬季五輪にパフォーマーを集めた応援団を派遣しました。訪問団の相互派遣は、ここ数カ月の韓国と北朝鮮の関係改善のさなかに実現したのです。』
この様な現状が日本でも書面を賑わせている。
その中には昨年空前の大ヒットを飛ばした北朝鮮を題材にした【愛の逃避行】主演のキム・スホの姿が有る。スホは、そのドラマの挿入歌を担当していた。それと、北朝鮮を題材にした大ヒット作品であった事から招待された。
実は一部のスタッフからは、北朝鮮公演の話には批判の声が上がっていたのだが、スホのたっての希望で実現した。
北朝鮮に着くや否や、他のスタ-達を横目にスホの到着ロビーには、特に圧倒的な群衆が押し寄せて、それこそ大パニックで、揉みくちゃにされている。
それでもスホの心は、やっと母の住んでいるこの国に来る事が出来た喜びでいっぱいだ。夢にまで見た母との再会、それが実現出来たらどんなに嬉しい事か。
だが、もし所属事務所にこの事実関係が知られたら大変な事になる。世界中から『北の悪魔』と呼ばれている久美子と、実の親子関係にあるのだと知られたら……。
それより何より事務所が一番恐れているのが、世界中から『北の悪魔』と呼ばれている久美子が母親と分ったら絶対に人気は急降下、韓流スタ-としての人気は地に落ちる。それどころか韓流スターとしては命取り。
そんな最悪な状態だけは絶対に避けたい。そう思うのは当然の事。
あんな史上最悪の悪女、粛清と言う名の下に最高幹部達が無謀な企て、暴挙を行ったとして多くを反逆罪の罪で死刑にしていた。
確かに星日政権が終わりをつげ、満生政権に時代が移り変わろうとした時に、幾多の幹部を粛清と言う名の下に、死刑にした事は事実だ。
それは久美子にして見れば、星日も死んでしまった今弱体態勢に反旗を翻し、この国を我が物にと目論む輩ばかり。自分の私利私欲しか考えない権力と金の亡者達を、どうして放って置けようか。
まぁ~?当然我が子満正を何としても守らねば、いつ…命の危機に直面するやもしれない。我が子可愛さというのも否めないが?
一掃しないと、たかが28歳の何も分からない満正に何が出来ようぞ。満正を守る為星日亡き後、この国の反乱を食い止める為に已む負えず行った行為。致し方ないのだ。
その時に反逆罪で粛清された人数は10有余人にも及ぶ。それに加えて経済の衰退で貧困にあえぐ一般市民を、よそに自分達は贅沢三昧。この様な現状化、世界中のメディアや新聞、雑誌等に散々阿鼻雑言を書き立てられている。
「春の訪れ」と題されたコンサートは現地時間1日夜、座席数1500席の東平壌大劇場で行われた。
【愛の逃避行】北朝鮮人男性と韓国人女性の悲恋物語は、北朝鮮でも圧倒的な人気が有る。
【愛の逃避行】の挿入歌『愛は永遠に』を披露したスホには、割れんばかりの満場の拍手喝采が鳴り響いていた。
素晴らしい出演者面々の公演に拍手を送った後、女帝久美子と金満正最高指導者、更にはその妻ジウ、それに高官トップを交えての改築されたばかりの楽屋で、出演者と会話や写真撮影をする事になった。
スホはやっと会う事が出来る夢にまで見た母に、余りの喜びに胸の高鳴りを抑える事が出来ない。
するとそこに、もう55歳にもなるであろう一際美しい気品に満ちたご婦人が、現れた。どう見ても40代にしか見えない彫りの深い、まるで生きる人形そのものの整った造形の美しい女性。
その時……スホはやっと思い出した。やっと蘇ったのだった。
ああああアアアアアア!あの眼差しは?あの笑顔は?微かに残る幼き日の愛情を一心に浴びていた、一分一秒たりとも無駄に出来ない熱い熱い重い重い愛情の押し売りに、鬱陶しさすら感じていた日の事を思い出した。
(母は、もう直ぐこの子と別れなくてはならない事を分かり切っていて、その短い時間の間に愛情を集約し注ぎ込んでいた。「母の愛は永遠に続くものだし、何もここまでしなくても鬱陶しいなあ~」あの時は……まさかそんな事が起こるとは思っても見なかったので怠慢になって、こんな暑苦しい愛情なんて要らないとまで思っていたものだ。そんな態度が災いしたのか……ある日、目が覚めると母から無理矢理引き離されて、車に乗せられる所だったんだ。母もワァ~~ン😭ワァ~~ン😭泣いて半狂乱で車の後を泣きながら追いかけて来た。俺はあんなに愛してくれた鬱陶しいまでの愛情にあぐらをかいて……これが永遠に続くと思って疑う余地など微塵も無かった。何故急に永遠である筈の母と……引き裂かれなくてはならないのか?まだ何も分かっていなかった。そこで「お前はこの国には必要ない子供だ。もっと言うならお前はいらない子供だ」「じゃ~?おかあちゃまは来てくれないの?」「ウフフフフフ当たり前だ!」そして森の中に捨て置かれ獣に襲われる怖さより……あんなに愛してくれた母と無理矢理引き離された事の悲しみ……昨日まではその愛の強さに辟易していたのに……失ってしまって分かった……掛け替えのない母……永遠に会え無い辛さで半狂乱で泣き叫び泣き疲れやがて涙も枯れ………眠りに付いたんだ。そのショックの余りの大きさに記憶を失ってしまった俺……その夢にまで見た愛する母が今目の前に……)
スホは滴る涙を拭う事すら忘れて……只々あの辛かった苦しかった頃に……思いを馳せている。
(無理矢理引き裂かれた辛さで、無意識に母の記憶を消そうとしていた。そうすればこの苦しみから解放される)
まだ幼子のスホの辛さはいかばかりだった事か……。
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