第10話 霊魔種
勢いよく駆け出したイリスの進路を塞ぐように、影の剣山が出現する。
「反理銀翼、二翼斧(エレクトラ)!」
羽の一枚が赤黒く輝くと同時に、彼女の手に握られた白銀の槍が、黒銀の戦斧へと変化する。
イリスの華奢な体では振るえなさそうな斧を、彼女は軽々と振るい、目の前の影を砕く。
「え、いない!?」
だが、そこに黒い姿はなかった。
「こっちだ」
いつの間にか、彼女の影の中に潜り込んでいた人影は、イリスの心臓目掛けて、刃を突き立てようとする。
「くっ! 六翼盾!!」
咄嗟に盾を展開するイリス。
「無駄だ」
しかし、彼女と盾の間に生まれた影から、刃が伸ばされる。
「影ある限り、私の刃は確実にお前の命を獲る」
防ぐことも回避することも出来ない、決定的な一撃。
黒い刃に貫かれた彼女の身体からは、血が滴り落ちる。
「イリス……!?」
その光景に動揺し、近づこうとするシオン。
だが、イリスは平気そうな顔で、静かに笑って見せた。
それもそのはず。
貫かれたように見えたのは、シオンの見る位置が悪かったからだ。
イリスは、武装した拳で影の刃を掴んでいた。
「ちっ……」
伸ばされた刃の狙いがイリスの心臓だということは、最初から明確だった。
だから、どれだけ致命的なタイミングであろうと、どこからその刃が向かってきているのかさえ認識できれば、防ぐことは容易だった。
とはいえ、反応が遅れたことは事実。
シオンが見た鮮血は、防御が間に合わず、刃に抉られた彼女の腕から零れたものだった。
掴んだ刃を砕きながら、イリスは状況を整理する。
まず、目の前の人影が霊魔種かどうか。
これは半信半疑ではあったが、ここまでの攻防で間違いないことを確信していた。
霊魔種は、精霊術ではなく魔法を行使する。
微精霊の力を借り、地、水、火、風、氷、雷、光、闇の属性に則った自然の力を行使する術が精霊術である。
それに対し、人影は世界の法則を無視するかのように、影を自由自在に操っていた。
闇の精霊術であれば似たようなことは出来るかもしれないが、影に潜ったり、影を具現化することは出来ない。
世界の法則を無視した力の行使は、魔法にしかできないことである。
また、魔術の可能性もあったが、魔術を使用する際は片の瞳に光の輪が浮かび上がる。
一方で、魔法を行使する際は、両の瞳に光の輪が浮かび上がる。
この特徴に当てはまることから、目の前の人影が霊魔種であることは疑いようがなかった。
精霊種に並ぶ創世の種族。
一瞬でも気を抜けば、イリスは簡単に殺される。
万全の状態ですら、勝ち目はゼロに近いというのに、彼女はある問題を抱えている。
まともに戦える時間は限られていた。
故に、彼女に残された戦略は、短期決戦のみ。
頭の中に響く怨嗟の声を振り払い、イリスは白銀の槍に戻った葬具を強く握りしめ、再び人影と戦いに挑む。
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