第2話 彷徨いガール
「お……おお……女の子になってるぅぅぅ!?!?!?」
シオンの絶叫が異界の地に木霊する。
「い、いやいやいや! ありえない……ありえないだろ!?」
突如、異世界に転生させられただけならば、まだ受け入る余地はあった。
しかし、少女に転性してしまっているというのは、到底受け入れられる事態ではなかった。
質の悪い夢を見ているのだと思い、シオンは草原に寝転がり、目を閉じる。
次に目を覚ましたときには、きっといつもの部屋で、いつも通りの自分に戻っているはずだ。
風が草を揺らす音を聞きながら、目を閉じるシオン。
「……やっぱりあるよな」
しばらくして、微かに目を開けたシオンは、自分の胸にある微かな膨らみを見て、ため息をつく。
何度目を閉じ、眠りにつこうとしても結果は同じことだった。
「……オレ、本当に女になっちまったのかぁ」
現実を受け入れざるを得ないと諦めたシオンは、身体を起こし、改めて自分の身体に視線を向ける。
「っていうか、何で制服……?」
改めて自分が少女になってしまったことを実感しながら、自分の服装が変わっていることに気が付く。
女性用の制服を持っているわけがないし、そんなものを着る趣味ももちろんない。
では、誰が何の目的でシオンを少女にし、制服を着せたのか。
そもそも、この服をシオンはどこかで見たことがある気がしたが、思い出せなかった。
現時点では、推測も出来ないほどに情報が足りていない。
それに、現状で最も欲しい情報はこの世界に関しての情報だ。
「とりあえず、人のいるところに行きたいんだけど……」
情報収集をするには、人のいる場所でなければ意味がない。
「スタート地点最悪すぎるだろ……」
シオンは、人の気配があることを願いながら辺りを見渡してみるが、目に映るのは自然ばかり。
「……情報よりも先に、食料とか寝るところ確保した方がいいんじゃないか?」
このままでは、情報を得る前に、飢え死にする方が先だ。
そう悟ったシオンは、食料と寝床を探すことにした。
「とは言っても、どこに向かえばいいのやら…‥」
結局、どれだけ方針を決めたところで、何の情報もない以上、下手に動き回ることも出来ない。
完全に手詰まりの状態に陥ったシオン。
適当に靴でも投げて、それが指す方向にでも進もうかとやけになっていた彼女だったが、状況は一瞬で変化する。
靴を振り投げようとしたシオンの視界の端に、閃光が瞬く。
「うわっ!」
遅れて届く轟音と塵風。
「な、何だよ、今の……!?」
明らかに自然現象ではないであろう事象。
「でも、今のって……誰かがいるってことだよな……!」
閃光と轟音だけであれば、落雷かもしれない。
しかし、ここまで届く土混じりの風は、爆風にも近しいものだった。
つまりそれは、誰かが人為的に引き起こした、爆撃などの現象であることの証左だった。
爆心地に向かえば、何か得るものがあるはずだ。
そう考えた時には、シオンの身体は閃光が瞬いた方向に向かって走り出していた。
しばらく走ると、変わり映えのしない景色の中に、巨大な樹が密集している地帯が現れる。
「あそこか……!」
目的の個所を発見したシオンは、森から誰もいなくなることを恐れ、速度を上げ、入り口まで到達した。
見上げるほどに巨大な樹の集合地帯。
そこから香るのは、自然の生き生きとした鮮やかな香りと、鼻を突くような煙と血の香りだった。
この森の中では、自分が思っているよりも、凄惨な光景が待ち受けているかもしれない。
そう思ったシオンの足は、鉛のように重く動かなくなった。
もしかしたら、中に入った瞬間、何者かによって殺されるかもしれない。
そんな良くない想像が、足を踏み出すことを躊躇わせていた。
しかし、ここで立ち止まっていては、せっかくの情報入手の機会を逃してしまう。
「……よし!」
シオンは意を決し、動かない足を殴り、無理矢理に一歩を踏み出した。
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