第7話 ダンジョンの中に草原?

「つっ……」


 どうやら俺は、気を失っていたらしい。


「ひまりちゃん! 大丈夫?」


 俺は隣に横たわっていたひまりを起こす。


「ううん……ケイお兄ちゃん?」

「怪我はない? どっか痛いとかない?」

「大丈夫だよ……ちょっと頭がぼーっとするだけ」

「よかった」


 ひまりが無事で安心した。

 もしもひまりに何かあったら、俺は一生、自分の不甲斐なさを悔やんでも悔み切れなかっただろう。


「ここはどこ?」


 ひまりが周囲を見渡した。


「わからない……」


 一面に、緑色の草原が広がっていた。

 草と土のいい匂いが鼻をくすぐる。


「まるで、牧場みたいだね」


 言われてみれば牧場みたいだ。もしここに牛や馬や鶏がいても、全然違和感がない。


「そうだな……」


 ここは本当にダンジョンなのだろうか。さっきまでいた薄暗いジメジメしたダンジョンとは違う。空に太陽が燦々と輝き、心地良い風が顔をなでる。


「きゅるるる!」


 草の影から、スライムが出てきた。


「スライムちゃんがここに連れて来たの?」 


《そうだよ。ぼくはキミたちに恩返ししたいんだ》

「え? 今、ケイお兄ちゃん何かしゃべった?」

「いや……俺は何を言ってないが」


《ぼくだよ、ぼく!》


 スライムはジャンプして、ひまりの胸に飛び込んだ。


《ああ……キミのおっぱいはすごく大きいね。柔らかくて癒されるよ》


 スライムが……しゃべってる!


《素晴らしいおっぱいだ……》


 スライムはひまりの胸にすりつく。


「スライムがしゃべるなんて……」


 俺もひまりも、信じられない事態に呆然としてしまう。


《ここはダンジョンの隠し部屋だよ。キミたちは特殊スキル「モンスターテイマー」を手に入れた。モンスターテイマーは、ぼくたちモンスターと会話することができる。さあこっちに来て! ぼくの仲間に紹介するよ》


 スライムはひまりの胸から飛び降りて、ぴょんぴょんと草原を進んでいく。


《ほら! ぼくについて来て!》

「どうする……ケイお兄ちゃん?」


 急に見たこともない草原に連れて来られて、スライムが人語をしゃべる。ありえない出来事が連続して、脳がショートしていた。

 俺は冷静になるために、深呼吸した。

 ふう……今、俺たちがやるべきことは、ダンジョンから脱出することだ。

 そして俺たちは、脱出方法を知らない。ここで頼れるのは、しゃべる不思議なスライムだけだ。

 それなら、もうついて行くしかないだろう。


「とりあえず、ついて行こうか。俺たちに何かするつもりなら、とっくに仕掛けてきているはずだから」

「うん……ケイお兄ちゃんがそう言うなら。死ぬ時はケイお兄ちゃんと一緒だからね」


 ひまりは俺の手を握った。


《早く! みんな待ってるから!》



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