第21話 海に来たら「海だーっ!」と叫ぶのはお約束
夏休みの予定を決める会議をしてから数日後、今日からならみんな連泊しても大丈夫なようなのでいざ三泊四日の旅へ!
キャンプ用品なんかはこっちで用意すると夏川が言っていたが、着替えやら遊び道具やらでそれなりの荷物になってしまった。
「お兄さん、今日からのお泊まり楽しみだねー!」
一緒に集合場所に向かう彩音はすでにウキウキだ。彩音は友達と三泊四日も遊びに行くなんて経験は初めてなのでかなり楽しみにしているようだ。
多くの荷物を抱えて集合場所にやってきた俺達を出迎えたのは俺の三倍以上の荷物を地面に置いている夏川だ。
「よおブラザーに彩音ちゃん!絶好の旅行日和だな!」
アロハシャツを着てサングラスをかけ、浮き輪を抱えている夏川はどう見ても浮かれている。
「おっす。今日はよろしくな」
「よろしくお願いしまーす!」
どこに行くかは知らないが準備やら送迎なんかは夏川家がしてくれるらしい。夏川の両親やお手伝いさんには今度お礼をしよう。
「お待たせー。今日からよろしくね」
「おはようございます。よろしくお願いします」
「おはよーなのです!よろしくなのです!」
俺達が到着して少ししたら残りのメンバーもやってきた。今更だが男もいるのに泊まりで遊びに行っていいのだろうか?
「よし揃ったな!もう少ししたらウチの車が来るからそれに乗って移動だ!」
そのまま少し待っているとなんかデカい車が来た。俺達だけで六人いるし荷物も多いから全部収まるのか不安だったがこれなら余裕だろう。
運転手さんに挨拶して順に乗り込んだ。いざ出発!
「ハルよ、女子の夏の服と言ったら何を思い浮かべる?ちなみにオレは浴衣。手にはわたがしかリンゴ飴を持っているとGOOD」
「白のワンピース。麦わら帽子は必須。場所がひまわり畑ならなお良し」
「何の話をしているんですか…」
移動中にそんなバカな話をして女性陣に呆れられたりしていると車が止まった。降りるように言われたので順に降りるとそこは海だった。ただし港。
「最初は海なのか?でもなんで港?」
「海は海だがここはまだ目的地じゃない。あれに乗ってさらに移動するぞ」
疑問を口にした俺に夏川が答えながら指差したのはデカいクルーザーだった。
____________________________
「船なんて初めて乗ったのです!」
「私もー!」
初めて乗ったクルーザーに大喜びではしゃぐ小学生二人。俺もクルーザーなんて初めてだけど。
「あんまりはしゃいでいると転ぶぞ?」
「大丈夫…って、あっ!」
「言ったそばから…」
結構揺れるし初めて船に乗ったなら慣れてないだろうと思って声をかけたそばから彩音が転びそうになった。すぐ側にいたので転ぶ前に支えてやる。
「ありがとーお兄さん」
「はしゃぐのもいいが気をつけろよ?」
「うん!」
そう言って小唄ちゃんと船首の方へ向かって行く彩音を見送る。元気いっぱいだ。それに比べて…。
「ううっ…気持ち悪い…。まだ着かないのですか…?」
「大丈夫?ほらお水。船内で休む?」
「いえ…まだ外にいた方が気が紛れます…」
氷上が船酔いでグロッキーになっていた。吉崎に介抱されているがキツそうだ。
「まだ30分はかかるぞ。氷上が船酔いするなら船での移動はやめとくべきだったな」
夏川が申し訳なさそうに言うがこれはしょうがないだろう。氷上が船に弱いなんて知らなかったのだし。
「私も船に初めて乗ったので船酔いするとは知りませんでした…。海なんて日上がればいいのに…」
「母なる海になんてこと言いやがる。少し吐いてきたらどうだ?多少は楽になるかもよ?」
「乙女としてそんなことは出来ません…」
「乙女(笑)」
「いい度胸ですね先輩…。そんなにお望みなら先輩にぶち撒けてあげます…」
そう言って氷上が俺に掴み掛かってきた。おいバカやめろ!
「オーケー話し合おう。俺が悪かった。だからその手を離せ。そして安静にしてろ。な?」
「うっ…急に動いたから余計に気持ち悪く…」
「メディークッ!」
服を掴んだまま俺の胸に顔を埋めている氷上の背中を慌ててさする。このままではぶち撒けられる!
「ほら深呼吸しろ。ヒッヒッフー」
「それ深呼吸じゃないよハル。ハルの言うことは無視して落ち着いてね瀬奈ちゃん」
テンパるあまりアホなことを言ってしまった。吉崎と二人がかりで氷上の背中をさすってやっているとなんとか落ち着いた。
その後も氷上は気持ち悪そうにしていたが最後まで吐くことはなかった。
乙女の尊厳は守られた。
_______________________________
「大地よ!私は帰ってきた!」
目的地に到着して船を降りるなり氷上が高らかに叫んだ。若干キャラ崩壊する程度には揺れない大地が恋しかったらしい。
「到着するなり元気になったね…」
「乙女(笑)の瀬戸際だったからな」
「うるさいですよ先輩。もう船はこりごりです」
「でも帰りも船に乗るんじゃないか?」
俺がそう言った途端氷上の動きが止まった。救いを求めるように夏川を見る。
「あー……すまん。帰りも船だ」
氷上は膝から崩れ落ちた。
「やはり海なんて日上がるべきです…。マ○マ団に入団して陸地を増やしてやります…」
「お前この前対戦した時は苗字が氷上だからって雪パだったじゃん。マ○マ団ってほのおタイプばっかのイメージだけど入れるのか?」
昔のゲームなので記憶が曖昧だがマ○マ団のトレーナーにはどくやあくタイプを使う奴もいたと思うし手持ちの制限はないのかもしれない。そもそもこの世界にはマ○マ団もア○ア団もいないが。
「おーい!そろそろ荷物下ろすの手伝ってくれ!」
「ああ、分かった」
夏川が船から荷物を下ろしていたので手伝う。なんかよく分からんデカい物もあるな。船から下ろした物は夏川の指示で船着場から少し離れた所にある家だか小屋?っぽい所に運ぶ。
「それでは三日後に迎えに参りますので」
「ああ、ありがとな」
そう言って船を運転してくれていた人は帰って行く。えっ?三日後?
「よし、長時間の移動お疲れ!若干一名グロッキーになってたが無事で何よりだ!今後の予定だがとりあえずここの海で遊ぼう!女性陣はそこの小屋で水着に着替えてくれ!着替えたら向こうのビーチに集合!はい、解散!」
疑問を解消する前に夏川が出した指示に従って女性陣が離れていく。まあいいかと俺達も水着に着替え、俺達の他に誰もいないビーチにパラソルやビーチでよく見る寝そべるタイプのイスを設置する。そうして一仕事終えた辺りで水着に着替えた女性陣がやってきた。
「今更だけどここで遊んでいいのー?他に誰もいないよ?」
誰もいないビーチを見た彩音が疑問を口にする。
「心配は無用だ!この島は夏川家が所有する島だ!オレ達しかいないから遠慮なく遊ぶがいい!」
プライベートビーチだとは思ってたがまさかの島ごと夏川家の物かよ。
「島なんか所有してたんだな?」
「ウチの爺さんがテレビでD○SH島見て「ワシもやりたい!」とか言い出して即買いしてな。船着場の近くにあった小屋擬きは爺さんが作ったものだ」
「ぶっ飛んだ爺さんだな」
「とっくに飽きて放置されてたんだがそれじゃあ勿体ないってことでウチのプライベートビーチ的な扱いにしようかと思ってる」
飽きたのかよ。確かに素人が島の開拓するなんてかなり大変だろうけど。
「島ごと夏川おにーさん家の物なのですか⁉︎夏川おにーさんは何者なのです⁉︎」
夏川家が金持ちだと知らなかった小唄ちゃんが驚いている。いや、俺も島を所有する程だとは知らなかったけど。
「オレか?ふっ、オレはだな…」
「まあそんなことはどうでもいいのです!海だーっ!なのです!」
「海だーっ!」
聞いたはいいものも目の前の海と比べれば夏川の素性などどうでもよかったらしい小唄ちゃんと彩音が海に向かって走っていく。小唄ちゃんの質問にカッコつけて答えようとしていた夏川は固まっている。
「……金持ちムーブ見せられといて素性はどうでもいいって言えるとは大物だな。もしくはアホ」
「あはは…まあ変に意識するよりいいんじゃない?」
あの様子なら変に萎縮したり逆に媚びたりすることもないだろう。夏川としても自然体で接してくれた方がいいだろうしよかったと言える。
「夏川先輩が金持ちだろうがアホなことに変わりはないので気にすることはありません。私達も行きましょう。海だー」
「そうだな。海だーっ!」
「それって言わないといけないの?う、海だー…」
夏川をdisりつつ棒読みで海だーと言った氷上に続き俺も海へ向かう。恥ずかしがりながらも俺達に続いた吉崎もノリがいいな。
「お前らの気負わないそういうところが良いと思う」
一人取り残された夏川が何か言ったようだが俺の耳には届かなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます