Uのメール(2023/04/17)

from : U・A

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to : M・M

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(前略)

(オクトの取材に来た記者Rと同行した個人研究者UからMへのメール)

(前半は関係者への挨拶等の為、省略)


 Oのことは驚きました。

 まず間違いなく、貴方がたの言う超常存在、未知の交信者との会話がなされている。

 はじめはトリックを疑いましたが、起こる事象一つ一つがあまりに非現実過ぎる。これをトリックで行っているのなら逆に大したものです。


 私なりにOとは何か考えました。

 生物の死の定義ははっきりしていないと言う話は、私が教授するまでもなく、M様なら理解していることでしょう。


 生物の生と死の境目はグラデーションであり、私達はその定義を勝手に決めつけているに過ぎません。死後の世界などとオカルトは容易く話を始めますが、死後なんてものが生物に存在しているかどうかも怪しいのです。

 そしてそもそも、生物とは本来的には不死です。細菌や古細菌らは細胞分裂によって増えますが、その個体それぞれの寿命というものは存在しません。環境さえ整えば、彼らは永遠の命を持っている。

 また、シロアリの女王の話もあの取材の時にもしましたね。

 シロアリの女王は子孫を産むとその度にその身体は停止、死を迎えますが、彼女らは予め自分のクローンを産み、自らの代わりとする。つまり彼女ら女王蟻も巣が存続する限り生まれ変わり続ける不死と言えなくもない。

 他にもクラゲやクマムシ、不死と呼んでも構わないような存在は、生物界にはたくさんいます。

 よく、科学は死を克服していないと言いますが、私は逆だと思います。私たち真核生物誕生以降に進化した生物は「不死を克服した」のです。


 しかし、私達人間は意識というものがあります。本来的に生物に死は存在しないのかもしれませんが、私達の心臓が鼓動を止め、医学的な死を迎える時にこの意識はどこへ行くのか。意識そのものが生体反応による副次物であるとする考え方もありますが、果たしてそれは本当でしょうか。

 私達人間は不死を克服した生物ではあるが、意識の死はまた別なのではないか? 私はそういった考え方を研究しています。


 人間の意識、有り体に言えば電気信号は保存することが可能です。そしてその電気信号は肉体が医学的な死を迎えると大抵の場合は霧散しますが、それが辛うじて残ることがある。霊魂の正体は電磁波だと言われるのもこれが理由ですね。しかし、貴方も知っているようにことはそう単純ではない。


 意識という電気信号のまとまりは、記録として空間に焼き付き、それが人々に影響を与えることがある。

 ほとんどの心霊スポットは偽物ですが、その中のほんの一厘程に、そうした焼き付いた意識の焼き付いたスポットが存在するのです。


 Oもまたそれでしょう。意識の焼き付きであり、それ故に会話をすることができる。しかし、あくまで意識の焼き付きは生前の電気信号が焼き付いたものですから、生きた人間と同じように話すことはできません。ただただ、会話のように振る舞っているだけです。


 しかしそれではOは幽霊なのか?

 いえ、私はそれもまた違うと思います。生物の生死の境目はグラデーションであり、本来区別することは不可能。それと同じです。

 その焼き付いた意識が、人間のものであるとどうして判断できましょう?


 そこにあるのはやはりグラデーションなのです。

 私達に区別は出来ない。私達に出来るのは、そこに意識の焼き付きがあることを観測することだけ。他人に伝えることすら許されない。


 私はあの日、Oと話しました。

 グラデーションです。生物の生死に境目はない。人間か霊魂かの境目もまた存在しないのです。


 Oは自分が存在するかどうか、観測されるかどうかを他者ごとに変えている。それを人間が出来ないとどうして思いますか?


 私にはわかった。私にだけわかったのです。

 M様、貴方には感謝しています。私の何十年来の研究がここに身を結びました。


 私はそこにいます。今後とも、宜しくお願い致します。




(MからUへ返信するも、送信エラー)

(記者Rへ電話して確認したが、Uという人間のことは知らないと言う)

(MがUからもらった名刺にある住所を調べたところ、そこはマクドナルドの店舗であり、その後のUの足跡は不明)

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