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そして、皆が揃った朝の食卓。大きなダイニングテーブルには、メゾン・ド・モナコの住人達が揃っていた。

意気込み十分で望んだ目玉焼きだったが、相変わらず、なずなとフウカの前には、焦げて黒くなった目玉焼きがあった。

あの後、フウカを頼らず一人で目玉焼きを作ったのだが、それを見事に丸焦げにしてしまい、結局フウカの手を借りる事となったのだった。

なので、他の住人達の目玉焼きは輝く程美しく、同じ皿に乗っているウインナーも、カリッと美味しそうに仕上がっている。


「すみません…」

「いいんですよ、いっぱい練習しましょう。そうすれば、すぐに作れるようになりますよ」


しょげるなずなに、フウカは優しく声をかけてくれる。毎度の事ながら、なずなはその言葉に慰められていた。


「フウカさん…」

「おいおい、あんまり甘やかしてると、その内フウカの胃に穴が開くんじゃね?」


なずなをバカにするのは、斜め向かいに座る少年、ナツメだ。

見た目で言えば高校生位だろうか、彼はアイドルを仕事にしており、今、知名度も徐々に上がってきている。背丈は小柄だが、大きなキリッとした瞳が印象的で、体の使い方が上手く、ダンスに定評がある。テレビでは、明るく人懐こい人柄が好感を持たれているが、それは表向きの性格だというのが、今の発言でよく分かるだろう。普段は口も態度も悪いが、憎めないのが、なずなにとって悔しい所だ。

彼は、猫又。体の使い方が上手いのも納得である。


しかし、さすがに毎日バカにされていては腹が立つもの。なずなはムッと眉を寄せた。


「大丈夫です!次こそは上手くいきます!」

「ハッ、どうだかー」

「私がフウカさんを傷つけるわけありません!フウカさんの胃は私が守ります!」

「現在進行形でやらかしてる奴が言ってもなー」


「そもそも人間の言うことなんて信用できるか」


なずなとナツメの攻防に割り込んできたのは、苛立ちを存分に含めた言葉。それには、なずなも思わず口ごもった。


ふん、と鼻を鳴らし、不機嫌な顔で食事を進めている彼は、ギンジ、狼男だ。

褐色の肌に銀色の髪、目付きは鋭く強面で、背も高い上にがたいも良い。彼は普段から無口な方だが、なずなにはいつも突き刺すように言葉を投げてくるので、なずなは苦手だった。


「ごめんねー、なずちゃん。この子、人間の女の子に化け物!って言われて手酷く振られてから、人間の女の子には誰でもこんな感じなのよ。だから気にしちゃダメよ」

「だったらどうした、俺を化け物扱いしやがって!」


マリンの言葉に、ギンジがドン、とテーブルを叩けば、「ひ、」と短い悲鳴が聞こえてくる。皆がはっとして視線を向けると、悲鳴を上げた少年は更に目を潤ませ、勢い良く頭を下げた。


「ご、ごめんなさい!」


そう謝る彼は、ハク。

見た目は小学生くらいで、大きな瞳が愛らしく、白い髪を持った少年だ。ワイシャツとハーフパンツというきっちりした服装を好んでおり、いつもどこか心細そうな様子で、一人で本を読んでいる。

彼は化け狸だが、毛並みが白く、それをコンプレックスとしているようだった。


「ハク君、違うよ。ハク君は何も悪くないよ、大きい声出してごめんね」

「なんで人間が謝るんだ!俺を庇った気でいるのか!?」

「ひっ、」

「はーい、ギンちゃん、お口チャックねぇ。これ以上なずちゃん虐めたら許さないから。さ、フウちゃんのご飯頂きましょ」

「結局、ハウスキーパーっつっても、フウカが飯作ってんじゃん」

「わ、私だって!サラダ作りました!今は修行中なんです!」

「みてみてーハクちゃん、きゅうりが繋がってる!なずちゃんの職人技よ」

「マ、マリリンさん、それは…」


ちゃんと切ったつもりなのにと、予期せぬ流れ弾に落ち込むなずなに、フウカが苦笑って慰めの言葉を掛けてくれる。


そんな乱れ飛ぶ会話の中、ナツメがつまらなそうにリビングを振り返った。リビングの大きな革張りのソファーには、男が一人寝転んでいる。

このリビング等に置かれている家具は、どれも年季の入っていそうな物ばかりだが、実はそれ程古い物ではなく、アンティーク調のそれっぽい物を安値で集めたという。


「おい、春風はるかぜー。もっとマシな人間居なかったのかよー」

「やめなよナツメ君、なずなさんは僕達のせいで巻き込まれたようなものだ。君も分かってるだろ、無理に連れて来たんだから…」


賑やかな食卓を時に苦笑いつつも、微笑ましく見つめていたフウカだったが、ナツメの言葉には反論し、なずなに申し訳なさそうな視線を向けた。


「いえ、私は、」

「おやおや、無理にとは心外だなー」


ソファーに寝転んでいた体を起こし、彼は帽子を被り直す。

彼はフウカのような特別な理由はないが、家の中でもよく帽子を被っている。無精髭を生やし、たれ目がちな瞳。いつもへらりと笑い、のらりくらりとやっている。ただの物臭か、心の余裕からくるものかは分からないが、いつものんびりしているというか、面倒くさがりというのが、なずなの印象だ。

服装は常に着物で、手には扇子を持っており、どこか雰囲気のある人だった。このアパートの住人の中で、一番アンティーク風なソファーが似合うかもしれない。

彼は、春風。このアパートの管理人で、貧乏神だ。


「僕はちゃんと話して、納得して来て貰ったんですよ、ねぇ、なずな君?」


にこりと微笑まれ、なずなは力無げに笑みを返した。


なずなが彼らと出会ったのは、一週間前の事。

今、巷で話題となっている、火の玉騒動が起きた夜の事だった。





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