第6話 平野に矢を降らせる魔族

「この一帯に矢が降らせているのは魔族だとお聞きしましたが、本当なのですか」

「ええ。一年ほど前にフルフル平野に魔族が住み着きまして。どうやら、その魔族が矢を降らせているらしいのです」

「一年! よくこれまで耐えてきましたね。討伐の要請はしなかったのですか」


 ジダイの一言を受け、村長は卓上に置いた鍋を撫でる。その表情には皺よりも深い懊悩が刻まれていた。


「もちろん、城には救援を要請しました。そのおかげで三百人の討伐隊が魔族を倒すために派遣されたのです」

「……では、その結果は」

「はい。フルフル平野に派遣された討伐隊は、多くの犠牲を出しながらも元凶である魔族を発見したそうです。ですが、魔族と交戦して生き延びた者はごく僅か。聞いた話では、帰還した兵士は三十人に満たなかったとのことでした」


 ジダイが息を吐き、目の前の容器から立ち上る湯気が揺らめく。


「フルフル平野に住み着いた魔族というのは、それなりに強力な存在らしい。多くの被害が出ているようですね」

「そうです。討伐隊だけでなく近隣の村にも被害が出ています。それに、いつまでも子どもたちに屋内にいさせるのも可哀想でして」


 そう口にして、村長は離れた卓で女将から本を読んでもらっている二人の子どもに目を向ける。二人は姉妹なのか、似た容姿を並べて女将が読む本の内容に聞き入っていた。


「この村は昔からレンガ造りの建物が多いため、近隣の村から避難民を受け入れているのです。それで宿屋まで満室でして。あの子たちも、ここ一年はこの宿で過ごしてばかりです」

「それは、可哀想ですね」


 ジダイが頷く。すでにフルフル平野に住まう魔族を倒す意志は固まっていた。

 ジダイがその心情を舌に乗せて放つよりも早く、横のスバルが立ち上がる。


「魔族のことはお任せください。何と言っても俺たちは勇者一行ですから」


 スバルはそう言って席を立ち、卓の横に移動すると剣を抜き放った。少年の身の丈に合った短めの剣が天を指し、研ぎ澄まされた刃が光を反射して一同の目に眩しい。


「間もなく魔族はこの剣の露と消えるでしょう。あっはっはっは!」

「きゃー! スバル君、カッコいいー!」


 すかさずネイロがスバルの周りを走りながら紙吹雪をまき散らし、格好を決めるスバルを彩った。


「その紙吹雪はどこから出しているんだ?」


 ジダイの疑問はさておき、早くもスバルは剣を収めてネイロは紙吹雪を箒で片付け始めた。呆気にとられる村長へと愛想笑いを浮かべながら、ジダイが口を開く。


「いや、まあ、とにかく、俺たちに任せてください。必ず魔族は倒してみせますよ」


 村長は目前の奇妙な光景に閉口していたが、魔族を倒すというジダイの意気込みだけは評価する気になったらしい。

 笑顔を浮かべた村長は声音にも期待を込めて言い放つ。


「分かりました。ぜひとも魔族討伐をお願いします」


 穏やかな笑みを浮かべる村長へとスバルとネイロが向き合う。


「はい。この勇者にお任せください!」


 若い希望に村の未来を託すように村長が頷く。決然とした表情で立ち上がると、村長は机上に置いてある鍋を取り上げた。


「この村のために戦ってくださる皆様に、村を代表して感謝します。ぜひとも、これをお持ちください」


 スバルとネイロ、ジダイの視線がその物体に集まり、異口同音に言葉が紡がれる。


「鍋?」

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