第23話 馬鹿野郎(後編)
アエギルがしゃべっている間もファイアボールの連続攻撃が飛ぶ。すでに服は焼け、アエギルの身体は水蒸気へと変わってゆく。
しかしアエギルはまだ笑っている。
「何やっとんねや!? 事態は悪化したで!」
ジェロムの首が何者かに締めつけられた。そう、水蒸気……つまり気体になったアエギルに。
「気体を焼けるか!? 気体を砕けるか!?」
首がどんどん締めつけられてゆく。しかし抵抗しようにも相手への攻撃は何一つできない……
フェイもジナイダもどうしようもなく……ただフレイアは、なぜかヘイムダルのノートを……
(……確か……最後のページに何かのメモがあったはず……)
ジェロムの両手から刀が落ちた。この時、初めての絶望感を味わったことになる。
(ちくしょう……こんな情けねえ死に方したくねえよ……リディア……え!? 何でこんな時にカレンじゃなくて……リディアなんだ……いいや、こんな時だから……)
ジナイダが思いついたようにアイスストームを放つ。しかしその相手がどこにいるのか見当もつかない。だからといってジェロムごと巻き込むわけにはいかない。フェイがガックリと膝をつく。
「わかった! ……ダグ・ファ・ジル!」
フレイアが何か呪文を唱える。まず
敵は声の一つも出さぬまま、氷と化した。ジェロムが床に前から倒れて顔をぶつける。そのショックで運よく、死ぬ前に目が覚めた(?)。
「……う……え? 何だコイツ、氷になってやがる……」
「ヘイムダルさんのノートにブリーシンガメンの五つの
「ならばそれも渡してもらおうか!!」
ジェロムたちが一斉に後ろを見た。
声の主は白髪の老人だった。側には仲間もいる。
「渡してもらおうか、って……もしかしてあんた、アスガルドの摂政のイミルだろ!? 百科事典にも載ってるぜ。でもイミルってことは……六魔導!?」
「そのとおり。しかし、よくわしらの作ったウォーターゴーレムを倒せたな」
「ウォーター……? ゴーレムね、どうりで魔法を使わなかったわけだ。そうするとそっちの男か?」
イミルの横にいた黒マントの男が進み出る。
「アエギルはワタクシです。水のアエギル……アエギル・クロフォードです。ああ、そうでした。そのゴーレム、早く粉々にしないと氷が溶けたらまた復活しますよ」
「ふん! わかってるよ!」
フェイはローリングソバットでウォーターゴーレムを破壊した。
「……それはそうとイミルさんよ、あんたら俺たちとここで戦う……」
「つもりはない。ただな……」
イミルが手の平を上へ向けると、突然フレイアのブリーシンガメンの鎖が切れ、ヘイムダルのノートとともにイミルの手に飛んで行った。
「これはもらった。わしはあと『シグルスヴェルズ』の剣と『グングニル』の槍と『ミョルニル』の鎚を手に入れればいいわけだ。『グラール』はすでにギムレーにいるスルト殿の手中……」
そう言うと、イミルとアエギルは一瞬で消えた。
「逃げられた……!?」
「あのジェロムさん……今取られたノートに書いてあった事なんですけど……グングニルの槍は赤道直下のムスペル諸島のどこかの島にある巨木イグドラシルの幹に突き刺さっていると……」
「よし、ムスペル諸島だな!」
それを聞いたジェロムは、勢いよく部屋を飛び出す途中、未だに気を失っていたトールを踏みつけてしまった。無論トールは目を覚ます。
「ぐっはあっ! ……何だ今のは! あ、ジェロムさん! さっきの雷を出す魔法の道具っスけど」
「なんですか、起きて早々……」
「ヘルに行った時の宿で、偶然トムたちと会った時に持ってたんスけどね、ディックの話じゃこう……ᛉᛄᚮᛚᛚᚾᛁᚱ……こういう文字が刻んであったんですよ。多分……」
トールの話の途中で、奇妙な文字を見てジナイダが言う。
「ミョルニル……ミョルニルって読めます!」
「そうだよ。この文字を使うムスペル人の武器に違いねえって」
「今度こそムスペル諸島……そうだ! スルトって奴はギムレーにいるって言ってなかったか!?」
「ずっと西のギムレーの国か。妖精たちが住んでて、神殿に聖杯が祭ってあるってやつですね」
「でもさ、トール。ハリーの奴が妙なトンカチ持ってた……あれがそのミョルニルかい?」
「そうだ……つまり狙われるのはまさにあの三人……!!」
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