第22話 勇者ね(後編)

 森の中、ホビットやドワーフが暮らす町、リリパット。人間のジェロムたちには興味深いものがたくさんある町だった。


 ドワーフの宝石細工……ホビットの曲芸師・軽業師たち……ノームの呼び寄せる森の精霊ドローニャ湖の精霊エド歌の精霊ハーモニアたちのコーラス……どれもが美しく鮮やかだった。


 ジェロムたちは町を一通り回って、最後にグラントが言っていた『黄昏館』という宿屋に着いた。


「ここがあの人の言っていた宿ですね。でもあのグラントさん、どうしちゃったのかしら……ホビットの曲芸見ている間にいなくなっちゃうんですもの」


「金だけもらっといてテキトーな案内してさ。まあ、いいじゃない。この宿屋……一階が酒場じゃないか。ここでその六魔導とかって奴等の情報集めよ、ねえトールぅ」


「は……はい、そうっスね。姐さん」


(ホントはただ酒が飲みてーだけだろ……)


 フェイはフレイアやジナイダも連れて酒場に入った。

 中はドワーフたちで一杯だった。無理矢理歌わされているエルフの吟遊詩人もいる。


「マスター、その名酒ネクタルってやつ、ちょうだい」


 フェイとトールは早速飲み始める。フレイアとジナイダはゆっくり歌などを聞いている。

 ジェロムだけは一応まじめに情報集めをする。


「あの~、カレンって娘……どこにいるか知ってますか……?」


「え? 何だって? 知……あっ!」


 偶然話しかけた相手がディックだった。トムとハリーもこっちを向く。


「なんだ、三人とも来てたのか。でもよく町に入れたな~」


「いや、あんたらを追いかけて行ったらグラントって奴に会ってよ」


「……ま……まさか、そいつに案内してもらったとか……何ポード払った!?」


「よく知ってたね。500ポードで親切にも宿を紹介してもらったよ」


「ご……ごひゃくポードも……」


 ジェロムはそのことをトムたちに話した。


「まあ、それじゃ私たち、その男に820ポードも払ったわけ?」


「ちっ……でも金はまだまだあるからな。それよかジェロム君よ、カレンって誰だ?」


「あ……さっきの話ですか、あれは……ちょっとした知り合いで……」


「……そうか……悪いがおいら達は知らねえ。そこらで飲んだくれてるドワーフにでも聞きな」


 そう言えば、もともと大酒飲みのドワーフはともかく、ホビットたちまでかなり酔っている様にも見える。


「あの、すいません。何かあったんですか?」


「……魔物がな……最近は昼間でも出るようになりやがってよお……町の外にも出られやしねえ……強すぎんだよな、あいつら……オレだって昔はオーガの群を一人で相手した程の戦士だ……なのに塔から来る魔物にゃ斧も剣も槍も弓矢も効かねえ……みんな通り抜けちまう……」


「塔……? 塔というと南の方に見えた塔ですか?」


「うるせえな……人が落ち込んでんのに面白がって何聞き出そうってんだ! 殺されてえのか!?」


「すいません~!」


 しかし、どうやらこの辺りの魔物は南の塔から来るらしい。


 ジェロムは一人宿へもどって明日の用意を始めた。少したって、ジナイダとフレイアがもどって来る。そのまま夜は明けた……。

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