第31話
外へ飛び出した岡崎を追って、西園寺と島部が慌てて外へ出る。周囲を見渡した岡崎は、神社を探して出鱈目に足を動かし始めた。
地の利がないだけ、そうせざるを得ないのだが非効率であることこの上ない。西園寺は何度目になるか分からない溜息をついてから、その背中を追った。
「綾、貴女ちゃんと目星はついてますの?」
「いえ、全く! 村の人を探して聞くのもありかなーなんて思ってます」
「そんなことだろうと思ったわ。その行き当たりばったりなところ、直した方が宜しくてよ」
「そうは言っても仕方ないじゃないですか、地図持ってませんし。ここ山奥ですし電波入りませんよ、きっと」
「岡崎の予想通りだ、圏外になってる」
「もう……嫌ですわ、こんな村」
「今回は西園寺先輩、自分で来るって決めたんですよ? それを言われても困ります」
「貴女に文句を言っていないでしょう、自分の判断を悔いてるのよ」
西園寺は軽く岡崎の頭を叩いてから周囲を改めて見渡した。やはり田畑が多く、それ以外には商店と民家くらいしか目立つものはない。神社らしき建物はどこにもなく、当て所なく歩き続けるのは非効率的であり限界があるだろう。
これは商店で話を聞く方が早いのかもしれない。西園寺はそう考え、先へ進もうとする岡崎の手首を掴んで商店へと足を踏み入れた。島部も二人に続いて建物の中へ入り、その品揃えへ目をやる。
山の中にあるにしては、品揃えが豊富でスーパーと名乗っても良さそうなだけ品数が並んでいる。だが気になるのは、その中に見覚えのないパッケージの菓子類などが並んでいることだ。
見慣れたパッケージの菓子類に紛れて、あからさまに古い時代のパッケージが並んでいるのはあまりにも不自然で目につく。島部が手に取って裏面を見てみれば、記載してあるはずの賞味期限が掠れて読み取れなくなっている。
「……なんだこれ」
「ああ、わたくし見たことがありますわ。現存のパッケージになる前は、このパッケージでしたのよ。この前テレビで特集をしてましたわ。コレクターの方がいらっしゃるだとかなんだとかで」
「へえ、何にでもコレクターっているんですねえ。……あ、これってもう発売中止になった清涼飲料水じゃないですか? 最近すごい話題になったので覚えてます、ある所にはあるんですねえ」
「あー、それは俺も知ってる。最近も最近だろ、つい二ヶ月くらい前」
「でも妙ですわね、流通が止まったものがこんなに置いてあるのはおかしいわよ。そちらのお菓子、復刻版のパッケージ出てるなんて話はなかったはずよ」
「店員さんに聞いてみます?」
岡崎はあれこれ手に持って、暇そうに欠伸をしている店主らしき人物の方へと歩いていく。
店主らしき人物は、岡崎に気がつくとレジへ入り読み取り機を片手に彼女の到着を待っている。レジに商品を置いたところで、岡崎が話しかけた。
「あの、すいません。この村でお買い物できるのはここだけですか?」
「ああ、そうだよ。小さな村だからね」
「それにしては品ぞろえがいいですねえ、どういった在庫管理をされてるんです?」
「定期戦で物資が届くんだよ。それを陳列してるだけさ」
「なるほど、ここは船だよりなんですねえ。台風の時とか、困ったんじゃないですか?」
「いや、多めにいつも発注してるからね。その辺は困らなかったよ。ここは台風の被害もほとんどないからね、住みやすい村だよ」
「へえ、そうなんですねえ。お話ありがとうございました」
岡崎は買い物を済ませ、袋詰めされた商品を手に西園寺と島部の元へと戻った。二人ともまだ懐かしいパッケージのお菓子を手に持って眺めており、岡崎が帰ってくるとそれらを元の棚へ置いて向き直った。
岡崎が店の外を目で示し、二人がそれに続く。商店から少し離れた場所で岡崎は足を止めてくるりと二人の方へと振り向いた。
袋からがさがさと買ったばかりの菓子類を取り出し、口へ運びながら先程店主らしき人物から聞いたことを口にする。
また出てきた船という単語に、西園寺の顔が明らかに曇る。シワの寄った、不愉快そうな顔をしながら彼女は口を開いた。
「わたくし、船って嫌いですのよね。この村、島でもないのに船、船って不吉にも程がありましてよ」
「不吉? ただの船だろ? 何が不吉なもんか」
「あー、ニコシマ先輩は知らないんですね。船ってシンボル学上、魂を宿す肉体って意味がありまして。他にも死、不死、復活って意味合いもあるので、この村に船が定期的に出て入ってってしてるのはちょっと不吉かなーとは私も思います」
「シンボル学って言ってもただのこじつけだろ、そこまで深刻に考えなくてもいいんじゃないのか?」
「だといいんですけどねえ」
岡崎はそう言いながら、呑気に菓子類を咀嚼している。賞味期限が読み取れない商品ばかりではあるが、中身は通常売られているものと大差は内容で、むしろ量が多いと喜ぶしまつだ。
岡崎の能天気さに西園寺と島部はついうっかり溜息が出そうになったが、目下の目的地である神社を探すべく村の中心部へ向かって歩き始めた。住宅地を探すより、村の中心部の方が人もいて話を聞きやすいだろうと思ったが故の行動だったが、思った以上に人がいない。
さて、どうしたものか。二人が困った顔をしたとき、岡崎が指をさして声を上げた。
「ちょっと大きめの建物がありますよ! 役場かなにかじゃないですかね、ここで聞けば早いですよ!」
「綾、貴女にしてはいい発見じゃないの」
「平坂さんとこからだいぶ離れたけどいいのか、これ」
「平坂さんにはまた後で謝っとけばいいんじゃないですか? とりあえず行きましょうよ」
「そうね、彼女用があるって出ていったのだし、大丈夫よきっと」
「まあ、ならいいけど」
島部は乗り気ではないようだが、岡崎と西園寺の提案に乗って役場の方へと彼らは歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます