第12話 調査報告

 雨宮家で行われていたのは人肉屍食のカルト崇拝、いわゆる人喰いであった。


 雨宮貴子はSNS等で知り合った男を売春を装い自宅に次々誘い込むと、睡眠薬を盛るなどして抵抗不能にしたのち浴室で殺害、最終的にその遺体を解体し食べるという一連の行為を宗教的儀式と称し、転居と共に幾度となく繰り返していたのである。


 警察は当初、単に売春事件のひとつとして内偵を進めていたが、やがて顧客と思われる男が尽くアパートに入ったきり出てくる気配のないことや、生鮮食品を名目に小さな家にしては異常な数の宅配集荷があると気付き、只事ではない空気を察知した。


 雨宮貴子が中古店に売却した衣類、貴金属がいずれもアパートに入ったきり出てこない男たちの所持品と一致していたこともあり、警察は家宅捜索を実行。結果、アパート奥の部屋の床下から、死後一~二か月と推定される大量の人骨が発見された。


 雨宮貴子の主張はこうだ。深海底にはふるき神が眠っており、いずれ来るその覚醒と共に世界は滅亡する。その時、旧き神を信じるものだけが滅亡後の世界で救われ、海底深くの楽園に迎えられるから、それまでに信徒は一人でも多くの血肉と一体化することで楽園に連れていく魂を増やさねばならない。それこそ人類を未来永劫存在させることに繋がるという考えであり、彼女はそれを『種の保存』と呼んでいた。


「――永久とこしえに眠れるものは死にあらずして、永劫えいごうのもとでは死すらもまた死せるなり!」


 取調中にそう唱えて笑う彼女の、精神鑑定を具申する向きもあった。

 いずれにせよ、未把握の犠牲者数が相当なものと思われること、そもそも犯行の性質上これが雨宮貴子一個人で続けられた代物でないことなどから、警察では背後により大きな事件が潜んでいるものとみて、慎重に調べを進めている。


 なお、雨宮来海の父の所在については現在のところ、事件性の有無まで含めて何ひとつ詳しいことは判っていない。

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