鷹の回廊
「さ、いこっか」
「ウン……!」
モモンガを後に残し、先を急ぐハチワレと白い獣。
門塔を出て、アーチをくぐった彼らの目の前にあったのは、目の前の視界を塞いでしまうほどの、長い坂道だった。坂道は城の内壁まで続いている。城内に入るには、この坂道を登れば良いようだった。
「すごい坂だね、でもここを登れば……お城のなかに入れるみたい!」
「ウーン?」
「ほら、坂の上にお城の入口があるでしょ? あそこに行けば、先にお城へ行ったみんなとも会えるかも!」
「ウン!」
弾けるようにして、勢いよく坂を昇る二人の獣。
しかし、彼らの小さくつぶらな瞳に入ったものがある。
「……ウン?」
「ワ……鳥さんだ!」
――鳥、いや、
鷹は実に勇壮な姿だった。白混じりの茶色の翼を折りたたんだ鷹は、長い尾羽根をピンと伸ばしたまま、坂道に積み上げられた荷物の上に佇んでいる。
鷹は獣たちの姿を認めると、翼をひろげ、まるで彼らを威嚇するようにした。
「鷹だ! でもなんだろう……怒ってるのかな」
「ウゥー……アッ!」
荷物の上にいた鷹はスッと飛び立ち、獣たちに向かい飛んでくる。
そして――
「ワァ……ッ!?」
まっすぐに向かってきた鷹は、その足元にある長大な何かを振るった。
刹那、それはハチワレが反射的に前に出した刺股とぶつかり、火花を飛ばす。
「ワワッ!! あの鳥さん、何か足につけてる!!」
「ウンッ? ……アッ!」
ハチワレの言う通りだった。鷹は足に長剣をくくりつけている。
いや、剣と言うにはそれはあまりにも薄く、鋭い。まさにそれは
「な、なんで、ど、どうしよう……?!」
「ウゥ……ワ、ワァ……」
狼狽するハチワレの声に、白い獣はいまにも泣き出してしまいそうな声を出す。
しかし鷹たちは、そんな獣たちの様子にもお構いなしと言った様子だった。
最初の襲撃で彼らの間を通り過ぎていった鷹は、飛んでいった先で翼で空気を打つと、くるっと向き直り、再びその小さな頭をこちらに向けた。
鷹の金色の瞳が、ギョロリと獣たちを捉える。
「また来るよ……! ど、どうしよう!!」
「ア!! ……ン、ンッ!!」
慌てるハチワレに対して、白く小さな獣は坂の横に積み上げられていた荷物を指さした。どうやら、隠れろというつもりらしい。
「わ、わかったよ、隠れよう!!」
「ウン!!」
ぱたぱたと可愛らしい足音を立てて、二人の獣は荷物の影に滑り込む。
その直後に、鷹は彼らの上を通り過ぎ、足元の剃刀が、木の箱を削るガリッという耳障りな音を残していった。
鷹はその翼で空を飛んでいる以上、直線的な動きしかできない。つまり、獲物が何かの裏や影、この荷物の影のようなものに隠れてしまえば、回り込んで攻撃することができないのだ。
鷹の速度は獣たちのよちよち歩きを圧倒しているが、こういった小回りにかけては、獣たちのほうが上だった。体の小ささも良い方向に働いた。
この小さき矮小な獣が、そこまでのことを理解していたとは到底思えない。
だが、彼は偶然にしても最善の手を打った。鷹は身を隠した獣たちを攻めあぐね、彼らの頭上で輪を描くようにして飛び、短い鳴き声を何度も上げる。
それはまるで、彼らに罵声を浴びせかけているようだった。
「フゥ……なんとか助かったね」
「ウン……」
「でも、これからどうしよう……」
「ウ、ア……ウーン」
荷物の影で息をつくハチワレと白い獣。
獣は必死に姿を隠そうとしたものの、この後のことは考えていないようだった。
「ひとまず、あの鳥さんが諦めてどこかにいっちゃうのを待とうか」
「ウン」
獣とハチワレは荷物の影に隠れ、しばらく姿を隠すことにした。何時までそうしていただろう。いつの間にか、頭上を飛ぶ鷹は姿を消していた。
「鳥さん、いなくなったみたい……今ならお城の中に入れるかな?」
「ウ……――ワッ!!」
「どうしたの? ……ワァ!!」
頭上から姿を消していた鷹が、まっすぐに獣たちの方に向かってくる。そして、その鷹が足に握っているもの。それは小さな樽だった。
しかし、ただの樽ではない。本来蛇口がつけられる樽の口には導火線がねじ込まれ、白煙と共にバチバチと火花を上げているのだ。
「まさか、爆弾って、コトォ?!」
ハチワレの声に答えるように、鷹はその足で握っていた樽を離す。火花をあげる樽は、優雅な放物線を白煙で描いて、獣たちの近くにドスンと落ちる。
刹那、獣たちが隠れていた荷物の壁は、爆炎に包まれた。
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