お説教は後で聞こう。だって家バレも何もここにいるのだから、私には逃げようがない。妖怪がストーカーにならないとは限らない。


「毬栗の君、私は一目惚れも何もしていないし、片想いなので早々に諦めて貰えると助かるんだけど」

「ストーカーの粘着質の要因って、その中途半端な許しにあると思いますよ?」


 瑞枝の淡々として感情のない声が怖い。

 それにこれは人間同士の話ではないし、そう、人間と妖怪。……刺されたりするより性質が悪いかなあ。物理で解決しない可能性がある。嘘か本当かは分からないが私の中に残っているという、呪いがその可能性を否定できない理由だ。


「いえ、はい、そうですね……それは、今は置いてもらえると助かります。……毬栗くんは、どうしたら満足してくれるのかな」

「ぴ?」


 藍がすっと身体を避けてくれて、初めてちゃんと対面する。

 毬栗姿をした妖怪は、まるで卵の殻を被ったひよこのキャラクターのように、毬を被って見える。栗色のイガの下から覗く薄い黄色のふわふわしている身体と鳥のような枝みたいな細い足。

 まっすぐに向き合うと、毬栗がちょっとこてんと身体を斜めにした。まるで首をかしげたみたいに。ちょっとかわいいと思ってしまった。


「ここで会ったのも何かの縁だろうし、私が出来る事なら、その、えっと。手伝おうと思って……」

「ぴぴ?」

「遊んでくれるのか? だって」

「遊ぶ?」

「こいつ、人間で云うところの赤ん坊みたいなもんでさ。だから刷り込みが成功してるようだゼ?」


 刷り込み、とは一般的に生まれてすぐに見たモノを親だと思い込んだりするヤツ……と、ちょっと前に調べたことがあったから知っていたけれど、やっぱりそれか。

 ならあの、窓から視た時がこの毬栗の生まれた時だったのだろうか。ただ転がっているようにしか視えなかったのだが。


「因みに、兄弟がこいつ含めて六人」

「六人……?」

「ぴー!」


 なにか胸を張っているようにもみえるが、六人兄弟というのが誇らしいのだろうか。確かに複数の、毬がころころしていた。

 大学に入学して、環境が変わって慣れる事にも大変かと思っていたけれど、学業以外が大変な気がしてきた。


「……遊ぶ、内容は?」

「ぴぴ、ぴーっぴっ! ぴぴぴ~、ぴっ! ぴっぴっ!」

「山でかくれんぼしたり、虫とったり、花の蜜吸ったり、駆けまわったり、だと」

「ぴ、に思った以上に情報が詰め込まれている……」


 本当に遊ぶだけなんだな、と言葉通りで安心するけれど、瑞枝はやっぱりどこか不満そうだ。

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