徒然なるは心の温かき
半年前だろうか、体調を崩し病院へ行った時、
病室の待合室で看護婦とおばあちゃんが話しているのを横で聞いた。
何やら友達も家族もみんないなくなったという孤独なおばあちゃんが、
もうわたしもあっちに行きたいと明るさを装った弱々しい声でいい、
看護婦さんは天国に行ったおばあちゃんの知り合いはあっちから
おばあちゃんの事を見守っているんだよと、
優しいトーンの東北訛り声で諭していた。
神様などいないというのに。
うちの家にはよく甥っ子が来るというか預けられるのだが、
いつだったか甥っ子とポカリスエットの粉を溶かして
おいしいねと言い合っていたところに、とある宗教の勧誘員が訪問してきた。
まあ僕はその宗教のパンフレットとはどういうものか知りたかったので
パンフレットを受け取ったのだが、その様子を甥っ子が見ていた。
あの人たちは神様を信じているけれど、本当は神様なんていないんだ、
でも本当に心が弱っている人はどうしてもなにかに縋りたくて信じようとするんだ、
結局お金だけ持っていかれるけれど、本当に心が弱っている人にとって、
生きていくためにこういうのに引っかかるというのがあって、
僕はそれが良い事なのか悪い事なのかわからないんだ、と甥っ子に話した。
甥っ子は、ふーん、とポカリの粉から作ったポカリスエットを飲んでいた。
神様などいないというのに。
昨日、母から甥っ子の不思議な行動の事を聞いた。
スーパーマーケットでお花を買いたいと言い出したという。
母が理由を聞くと「ほとけさまにあげる」だと言うのだ。
家でも幼稚園でも教わっていない事だが、花を買い、
家に着いてすぐに仏壇へと花を持って行った。
お前は偉いね、と頭をなでてやると照れくさそうに笑っていた。
仏壇に甥っ子が買った花が供えられているので、線香を立て、しばし目を瞑った。
神様など、神様など、いないというのに。
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