第19話 乗り気しない雑談

「えーっと」


 フィリベール王子に呼び止められたけど、話したい内容がまとまっていないのか、口ごもる。わざわざ呼び止めたのに、何なのかしら。


「何もなければ、またの機会に」

「いや! ここまで来るのは、大変じゃなかったか?」


 そのまま立ち去ろうと思ったら、慌てて考えたのであろう質問を投げかけてきた。それは、彼が話したかったことなのかしら。違うと思うけど。


 でも聞かれたので、フィリベール王子の質問に答える。


「スタンレイから王都まで、遠かったです。何日もかかって到着したので、戻るのも大変ですよ。だから、頻繁に行き来することはできませんね」

「そうか。わざわざ来てくれて、ありがとう」


 何故か、フィリベール王子からお礼を言われた。私としては、ブレイク様と一緒に馬車に乗って王都に向かう旅は、とても楽しかった。だけど、大変だったのも事実。今後、余程のことがない限り王都に来ることもなさそう。


 親友のミリアンに会いに行く、ぐらいかしら。


 フィリベール王子は、質問を続ける。私に、辺境のことについて聞いてきた。彼は興味があるのか、ないのか。興味はないだろうと思いながら、私も答える。


「その。辺境の生活なんて、大変だろう?」

「大変じゃありませんよ。意外と快適です。美味しい食べ物がたくさんあるし、綺麗な景色を見ることが出来るので」


 そして何より、ブレイク様が居る。それだけで十分。私の答えを聞いて、不満そうな顔をするフィリベール王子。彼の求めていた答えじゃない事が容易に分かる。でも本心だから。


「レティシア。その、王都に戻ってくるつもりは、ないのか? 前のように、王都で暮らしたいという気持ちは?」


 どうやら、それが私に話したかったことのようだ。


 戻ってこいと言いたいのだろう。だけど、私は首を横に振った。拒否すると思っていなかったようで、驚きの表情を見せるフィリベール王子。なんで私が、戻りたいと答えるなんて、予想していたのか。違うに決まっている。


「王都に戻るつもりは、ありませんよ」


 はっきりと告げた私に、彼はショックを受けたような表情を見せた。しかし、すぐいつもの表情に戻り、問いかけてくる。


「な、なぜだ? あの頃の生活に戻りたいと思わないのか!? 君が戻ってきたら、婚約の破棄も撤回を―――」

「私達、結婚しましたから。私は一生、夫となったブレイク様が統治するスタンレイで暮らしていくつもりなので。死ぬまで、ずっと」

「え?」


 私の言葉を聞いた瞬間に、信じられないといった様子で固まるフィリベール王子。これで、彼が話したかったことは終わりかしら。私が王都に戻るつもりは一切ない、ということを理解してくれただろうか。

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