第6話 辺境の領民達
馬車に揺られて、辺境の地へ向かう。目的の場所に到着するまで、かなりの日数が経っていた。馬車に乗っていた時間の分だけ、とても遠くへ来たんだと実感する。
途中で立ち寄った村や町など辺境に向かって進むと、どこも大いに賑わっていた。王都に比べて辺境は、まだまだ開発が進んでいないのかと思っていたけれど、それは私の間違いだったようだ。実際に自分の目で見ると、発展しているのがよくわかる。
「ここの村は、これから大きな街になる予定なんですよ」
「そうなのですか! それは楽しみですね」
とある村で出会ったおばさんが、親切に教えてくれた。私は感心しながら、おばさんの話を聞いた。辺境も日々、変化しているらしい。
王都周辺にある都市よりも栄えているんじゃないかと思うほど凄く発展していて、どの村や町も雰囲気がとても良い。ここを治めている領主が優秀なんだろう。
国境に近い場所だから、争いも多いはずだ。それでも、領民たちの表情は明るい。元気な領民たちが居るからこそ、村や町が発展しているんだろうな。
旅の道中、住人に話を聞いたり周囲を観察していた私は、そんな事を考えていた。
あと少し先へ進めば、スタンレイ辺境伯が住んでいるという街に到着する予定だ。その目前で日が落ちて、辺りが暗くなってしまった。このまま進むのは危険なので、途中にあった街に寄って一泊することになった。
「あんた!」
「はい?」
馬車が止まって降りようとした時に、年老いた女性の大声が聞こえた。どうやら、私に話しかけてきた様子。声の聞こえてきた方へ顔を向けると、女性は怒ったような表情で詰め寄ってきた。
知り合いではないと思う。何か、怒らせることをしてしまったのか。不安になってオロオロしてしまう。
「スタンレイ様と結婚する女って、あんたの事かい!?」
「おい、ばあさん! レティシア様に一体、何の用だ?」
「うっさいわね! あんたに用なんてないわよ!」
私が乗っていた馬車を運転していた御者の男性が、私と老婆の間に割り込む。勢いよく詰め寄ってくる女性から、守ってくれた。
しかし、老婆の勢いは止まらない。男性を押し退けて、私に近づいてくる。
「それで、あんたがスタンレイ様の結婚相手で間違いないんだね!?」
「おい!」
「えぇ。おそらく、私のことでしょう」
御者を無視して話を続けようとする老婆に、私は答えた。スタンレイ辺境伯と婚約したのは事実だから。いずれ結婚することになるだろうし、嘘をつく必要はない。
老婆は真剣な表情で、さらに顔を近づけてくる。
「なら、心してよく聞きなさい! もしも貴女が、スタンレイ様を傷つけるようなら私達が絶対に許さないからね!」
「おい、婆さん! 止めろって! 本当にすみません!」
急に、その老婆から釘を刺された。どういう事だろう。その後ろから、村の青年が慌てて駆け寄ってきた。老婆を止めようとする。老婆の身内だろうか。
青年は顔を青ざめて、私達に何度も頭を下げて謝る。
「まだ、この娘に言っておかないといけないことが沢山あるのよ!」
「何やってんだよ。迷惑だろ! さっさと、行くぞ」
「うっさいわね、アレン。邪魔するんじゃないよ!」
「バカ! 邪魔なのは俺たちだし、相手は貴族なんだぞ! ヤバいって!」
今度は、青年と激しく言い争いを始める老婆。
「スタンレイ様は、私達のために苦慮して村を良くして下さった。あんな良い領主は居ないよ! だから、幸せになって欲しいじゃないか」
「それはそうだけどさ……。だからって、あの女性に詰め寄って厳しく言っても駄目じゃないか。怖がらせちゃうよ」
どうやら年老いた女性は、スタンレイ辺境伯の事を想って忠告してくれたようだ。
私は、スタンレイ辺境伯が領民である老婆から慕われていることを知った。青年もスタンレイ辺境伯慕っているようだし。こんなにも愛されているとは思わなかった。きっと辺境伯の人柄が良いから、みんな慕っているのだろう。
辺境伯について、王都で良くない噂を聞いていたけれど事実は違っているらしい。そんな人なら、私も仲良くなりたいと思う。
「わかりました、お婆さん。スタンレイ様を傷つけないように、私は最大限の努力をします」
「ふん。どうなるか、私は見てるからね!」
「おい、だから! 貴族様にする態度じゃないって!? ほ、本当にすみません!」
「いえ。気にしていませんから、大丈夫ですよ」
「ありがとうございますッ! ほら、いい人そうだよ。だから、もう行こうよ!」
「ふん」
青年が、お婆さんの腕を引っ張っていく。そして2人は、去っていった。ちょっとした騒動は、何事もなく無事に終わってくれた。
こうして私は、まだ出会ったこともないスタンレイ辺境伯を傷つけないと誓った。結婚する相手だから、仲良く出来たら良いなとは考えていた。
今度は、結婚する相手とギスギスした関係になるのは嫌だから、仲良くしたい。
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