蝶々ユラギの変態

犬塊サチ

プロローグ

 蝶々てふてふユラギは完全変態していた。


 肌の色、顔の輪郭、目の大きさ、鼻の高さ、身長、体重、骨格、手足の長さなど、身体を形成するありとあらゆる要素が、以前のものとは全く異なる色や形へと、彼女は毎朝、完全なる変態をしていた。


 一般的な人間であれば、毎日変わるといっても、せいぜい髪型や服装や化粧や髭の長さくらいなものだろう。

 だから、一般的な見方でものを考える人々は、日々変貌し続ける蝶々ユラギのことを、一貫した自己認識を持つ同一個体だと認めることが出来なかった。


 僕だって最初は疑っていた。そんな、一日ごとに根本から身体機構が変わってしまうような生物が、この世界に存在するとは思えなかったからだ。

 蝶々ユラギは、明日になれば丸顔の幼女になるか、それとも三角顔のお婆さんになっているかもしれない。


 彼女の全面的かつ劇的な仕様変更は、蝶々ユラギの変化を人類史上、最も長く観測しているはずの僕にさえ、全く予測のつかないことだった。

 しかし、法則性と呼んでいいものも、いくつか見つかっている。


 まず一つ、蝶々ユラギの変身は、一日の間にそう何回も起こるものではないということ。

 僕の観測上、彼女の心身に起こる全面的な変化は、毎朝一度しか起こっていなかった。

 朝から夜まで、それこそ一日中、その顔と、その声と、その性格と知性と価値観と、その髪型と服装を維持していた。


 その朝に僕は――比喩表現などではなく、まさに文字通りの意味合いで、蝶々ユラギが毎朝、新しい存在へと生まれ変わっていたのだと――知った。

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