第4話 お前の好きなようにはさせない──ブライアンside

 一人取り残された俺は、ミンディの言葉を反芻する。


 ……今更あわてても遅い。か。


 俺にもっと早く意識して欲しかった……なんてな。


 都合のいい事を考えてかぶりを振る。


 でも……


 王太子殿下が昼の時間にいつも過ごしているという部屋の窓を中庭から見上げる。


 ──幼い頃高熱で寝込んだ事が原因で王太子は不能だ。


 そんな噂がまことしやかに流れている。


 婚約予定だった公女様がお断りになった理由は、その噂が事実だったからではないか、なんて言われている。


 お飾りの王太子妃にした挙句、世継ぎが生まれなければ自分の身を守るために王太子妃を原因にするに違いない。


 王室主催の茶会ではこちらから断ることはできないため、年頃の娘を持つ貴族達はいろいろな思惑を天秤にかけて参加する。

 噂を知っていながら届いた招待状に浮かれ王太子に近づく様にけしかける親もいれば、不快感をあらわにしている親も多いと聞く。

 ベリンダを溺愛している父上も、表面上は王室に対して中立派の姿勢は崩さないが、今回の茶会次第では反王室派に鞍替えしかねない様子だ。


 はたとそこで俺は気がつく。


 王太子殿下の茶会に堂々と乗り込む方法があるじゃないか。


 令嬢が茶会や舞踏会に参加するとなれば必ず付き添いの男性を伴う。親や婚約者が付き添うことが大半だが、兄や親戚が付き添うこともある。


 招待を受けているベリンダの付き添いとして乗り込んでやる!


 お前の好きなようにはさせない。


 俺は王太子が居ると思われる部屋を睨みつけた。




 ***

 


 俺もベリンダも王宮の立派な中庭に足を踏み入れたのは今回で二回目だ。

 かなり昔に王太子と歳の近い貴族の子女が集められて、交流をするための茶会が開かれた。

 その茶会でお目通しがあり、公女様が婚約者候補筆頭に座られたため、そこから先は貴族の子女を対象にしたような大規模な茶会が開かれる事はなかった。

 それ以降は侯爵家以上の子女とばかり付き合って伯爵家の俺たちなんて興味もなかったくせに、王室の都合で急にこんな茶会を開くのも腹立たしく思う。


「ブライアンお兄様。緊張するわ」

「大丈夫。大丈夫」


 いくつもの花園に分かれている中庭に設けられた会場には、まず受付を済ませてから向かう様になっているらしい。

 上の空の返事でミンディを探す俺の腕をベリンダは引っ張る。


「もう! ブライアンお兄様の目的はわかってるけど、私の付き添いの仕事も果たしてくださらないと嫌よ」

「あぁ。悪い悪い。でもいつも通りで大丈夫だ。別に王太子殿下に見染められたいわけではないんだろ?」

「そうだけど、でもあんなに見目麗しい王太子殿下とお話できるかもなんて、口から心臓が飛び出そうよ」

「見目麗しいね……俺だって、なかなかいい男だと思うけどな」

「ブライアンお兄様もかっこいいけれど……」

「なんだよ」

「女の子なら一度はお姫様を夢見るものよ?」


 ミンディもそうなのだろうか。

 俺が黙り込んでいると、王宮の使用人がやって来る。


「ケイリー伯爵家のベリンダ様でしょうか? どうぞこちらへ。お付き添いの方はあちらでお待ちください」


 そう言われてベリンダの行き先と俺の行き先を確認する。


 ご令嬢達ばかり集めた花園と付き添いの父兄が待たされる花園が別に割り当てられていた。あからさまな処遇に空笑いが出る。


「……ブライアンお兄様。ミンディの事は任せてね」


 そう言って王宮の使用人のエスコートでご令嬢ばかりの花園に向かうベリンダを見送っていると……


「なんで? 何でブライアンがいるの⁈」


 ミンディの驚く声が聞こえた。

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