失くしたもの

いつもの公園に男が1人、ベンチに座っていた。冬の終わり、冷たい風に揺られ、彼の髪は干し草のように揺れている。

「どうかされましたか?」

男に話しかけると、彼は細々とした声で、

「あるものを失くしました。」

そう言った。私は彼の隣に座り、淡い赤色に染まった空を見上げた。

「何をなくしたのですか?」

彼は数秒黙った後、ゆっくりと口を開けた。

「…道を失くしました。」

静かに北風が間を走る。

「そうですか…。」

そう言い残し、そのままその場を去った。無責任だと罵られようと、私はこの判断を間違えたとは思わない。道に対する答えは、自らが決めるべきだ。私はそう思う。



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