第20話 体育とはお尻観察の場である1

20話 体育とはお尻観察の場である1



「……ということがあってな?」


「ふむ。とりあえずリア充は失せろ」


「口悪いな!?」


 誰がリア充だ誰が。


 俺は先日葵と仲直りをしたこと、そしてさっきの昼休みはアイツの手作り弁当を食べたことを大和に話した。


 五限が終わった途端自分から早く教えろと掴みかかってきたくせに、なぜ素直に話したら失せろなんて言われなければいけないのか。酷い。


「お前、白坂さんとは本当にただの幼なじみに戻ったんだよな? 付き合い始めたの間違いじゃないよな?」


「いやどんな間違いだよそれ。俺とアイツは今、正真正銘ただの幼なじみだっての」


「た、ただの幼なじみが朝から手繋ぎ登校したうえ、手作り弁当まで……」


 いやまあ……うん。大和の言いたいことも分かるけども。そこはもう俺も色々と考えてる最中だから深く突っ込まないでほしい。


「って、ヤバいぞ。そろそろ六限始まる」


「あ、待てコラ! くそぅ、なんでこのド変態にはあんな可愛い彼女(仮)がいて俺にはいないんだ……」


 何やら悲しい呟きが聞こえたが親友のよしみで聞き流すとしよう。

 

 体操服の上からジャージを羽織り、シューズを履いて体育館への階段を登る。


 六限は体育だ。確か第一回の授業はいきなりスポーツテストから始まるんだとか。正直少し気が重い。


 明らかに怖い感じな肩幅バケモノ先生の説明を聞いていると、どうやら種目は七つもあるらしい。


 五十メートル走、シャトルラン、握力測定、ハンドボール投げ、反復横跳び、立ち幅跳び、長座体前屈。今日は体育館なのでシャトルランと握力測定、長座体前屈をするらしい。


「うへぇ、シャトルランかよ。あれクッソ疲れるから嫌なんだよなぁ……」


「それな。俺なんてただでさえ体力無いから最悪だ。でも大和は一応運動部だったわけだし、それなりには良い記録出せるんじゃ?」


「馬鹿お前、変に出せるからこそしんどいんだろうが。これ成績に直結するらしいからサボる訳にもいかないしなぁ……ぜぇはぁ言いながら崩れ落ちる俺の姿が目に浮かぶわ」


 そ、そうか。運動神経が良い奴は正直楽勝なんじゃないかと思っていたんだが、どうやらそんな単純な話でもないらしい。


 シャトルランは運動神経……というかとにかく体力がある奴は無限に続けることができる。だがその分、最初の方にリタイアした人より長く走らなければいけないわけで。大和の場合人よりも体力がある分ある意味しんどい思いをするわけだ。


「よし、じゃあまずは軽くウォーミングの体操とランニング二周。それが終わったら二つの班に分けて片方はシャトルラン、もう片方はそれ以外の測定だ」


 ただ、悪いことばかりではない。大和はどうか知らないが、少なくとも既に俺はそれに気づいていた。


 スポーツテストは面倒だ。だが唯一、二つの班に分かれるという特性だけは大きい。シャトルランなんてどうせ時間がかかるし、反復横跳びと握力、長座体前屈をする程度で待ち時間を全て潰せるわけじゃないだろう。


 つまり確実に休憩時間が訪れる。そして俺はその時間に……。


(もし気づいてなかったら、大和にも教えてやるか)




 一人心の中でそんなことを呟いて。俺は周りが立ち上がってランニングに向かう背中を追いかけながら、走り始めたのだった。

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