第10話 団体さん


ある日、団体さんの予約が入った。

貸し切りだという。この店はカウンター席8名、椅子席20席。普段は貸し切りを受けないけど、今回は常連さんが転勤に伴う送別会だというので受けた。

今日のお客さんは15名。19:00~21:00の予約だった。


でもマスターは今日1日貸し切りにすると決めた。



「朋美ちゃん。今日はいつもとは少し違う。食べ物も多いし、いろいろ出し入れがある。申し訳ないけど、お運びも手伝ってくれるかな。」


「わかりました。」


「なんかあったら言ってよ。イャなことはさせないから。」


「ありがとうございます。」


 

団体さんは賑やかだった。

いつもの店とは違った。華やかな女性もいてきらびやかだった。


オードブルに、少しお腹に溜まるような食べ物、フルーツなどを大きな銀の皿で提供した。

飲み物もシャンパン、ワイン、ウイスキー、ウーロン茶など結構出した。

氷を追加したり、グラスを取り替えたり、やはりいつもとは違った。



なんだかんだで22:00までお客さんはいた。でも満足されて帰っていった。


closeの札をマスターがドアに掛けた。

3人は大きなため息をついた。


「お疲れさん。今日は片付けも適当にして終わろう。それでこの後軽く朋美ちゃんの歓迎会をやりたいと思う。すぐそこの焼き鳥屋。」


「焼き鳥屋? 」


櫻井君が驚いた声で言った。マスターは笑っていた。


「朋美ちゃん焼き鳥きらい? 」


「いえ。好きです。焼き鳥屋に行ったことないので行きたいです。」


「行ったことないんだ・・・」


櫻井君はまた驚いた声を出した。


「はい。基本お酒を提供する店に行ったことが無いです。」


「良くこの店に来たね。」


あきれ顔で櫻井君は言い放った。


「偶然です・・・」



3人は焼き鳥屋に行った。

私は焼き鳥や、つまみを大いに気に行った。

櫻井君も初めは渋い顔だったが、徐々に話すようになりいつもよりは明るかった。

結構飲み食いをして楽しい時間が過ぎた。


24:00に解散した。

櫻井君は違う方向なので一人帰っていった。マスターはいつものように私を家まで送ってくれた。


「今日はありがとうございました。御馳走様でした。本当に美味しかったし、楽しかったです。」


「良かった。朋美ちゃんが来てくれて助かっているよ。これからもよろしくね。」


「はい。」


「じゃ、おやすみ。」


「おやすみなさい。」


いつものとおりだった。



私は、ハローワークでの仕事探しを止めた。

既に1日4時間以上の仕事をしていたし、日中つまらない事務仕事をする気にもならなかった。

特にマスターにはそのことを言わなかった。

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