竜の卵とたくさんの泥棒

ひゐ(宵々屋)

盗賊とカラス

 街から離れた山岳。そこに竜が住んでいるというのは、有名な話でした。


「どうだ、竜の卵を盗むというのは」


 盗むものに困り果てた盗賊達が、洞窟の中で話しています。


「竜の卵だって! 俺は竜を見たことないが、あれは火を吹くし、牙や爪も鋭いし、鱗だって硬いと言うじゃないか。そもそも竜の卵なんて、そんなにいいものなのか?」

「知らないのか、お前。竜の卵とは、黄金でできているんだ。もし手に入ったのなら、誰もが欲しがるし、高値がつくぞ」

「けど、相手は竜だ。俺達人間がかなうわけがない」

「ところがな、いまいる『卵守』の竜は、とても間抜けな奴だと聞いたのだ」


 可能性があるのなら、ちょっと行ってみるだけなら……盗賊達は、山にある竜の住処まで行ってみました。


 竜の卵は『卵守』という役目を背負った竜が世話をしています。盗賊達がそっと岩陰から頭を出せば、大きな鳥の巣のようなものが、地面に作られていました。中央には金色に光る球体が一つ。そして巣の傍らには、鼻ちょうちんをつけて眠る竜一体。まだ若い竜で、盗賊達が近寄っても起きません。


「しめた、どうやら間抜けな竜というのは、本当らしい」


 『卵守』の竜が起きる前に、盗賊達は金色の卵を抱え上げました。両腕を使ってやっと抱え上げられる大きさです。

 その卵の、眩しいほどの金色。良く磨かれ、まるで鏡のようで、また作り物のようです。しかし男に抱え上げられた瞬間、黄金の卵は確かにぴょんっ、と跳ねたのでした。


「おお、生きている」

「暴れまわらないでくれ、落としたら割れてしまう」


 盗賊達は竜の住処から離れていきます。男達の頭には、竜の卵と同じ色をしたたくさんの金が思い浮かんでいました。それからごちそう、美酒、女……。


「竜から盗みを行うなんてどうなるかと思ったが、簡単すぎて拍子抜けしたなあ」

「それにしても眩しいほどの黄金色だ。崇めたくなるほどだ」

「今日はもう夕方だ、明日、金にしよう……ああでも本当に、神々しいほどの金色だ」


 盗賊達のアジトは洞窟にありましたのか、誰が考えたのか、洞窟の外にちょっとした台座を作り、そこに竜の卵を置いてみました。すると、竜の卵の金色は、夕日を受けてさらに美しく輝くのです。


 盗賊達はより機嫌をよくしました。まだ金は手に入っていないものの、貴重な酒を取り出し宴を始め、踊り出す者数人。歌い出す者数人。手拍子する者も数人。



 * * *



 ……そんな風に盗賊達はしゃいでいたために、気付けませんでした。


「おや? 何だろう、あの素敵な輝きは!」


 山の住処に帰ろうと飛んでいたカラス一羽、竜の卵の輝きに惹かれてやってきました。


「ああこんなに輝いて! どんな金属でもかなわない! ほしい、ほしい!」


 竜の卵にカラスが近づきますが、酔っている盗賊達は誰も気付けません。

 暗くなる前になんとか巣に持ち帰ろうと、カラスは両足で卵を掴みますが、


「うむ、重いし滑る。どうしたものか」


 あまり時間がかかってしまうと、盗賊達に気付かれてしまいます。と、そこへ。


「そこの、一体何をしているのだ? おお、その輝き! どんな宝石でもかなわない!」

「人間に気付かれる前に盗み出したいのだ、何か方法はないか?」


 やって来たのはカラス数羽。集まったカラスは知恵を絞って、まずは盗賊達から網を盗み出しました。


「これを使って運べばいいのだ!」


 網を広げれば、そこに竜の卵を転がし落としました。地面に落ちる前に、網で包むように受け止めます。

 ようやく卵の運搬ができるようになりました。カラス達は必死で羽ばたき空へ昇ります。


 小さなカラスがひいひい鳴いています。


「うう、重すぎるよ」

「坊主、お前は飛ぶのがまだ下手糞だな。こうやって翼を動かせば楽になるぞ」

「こう? わあ、確かにこっちの方が楽かも」


 そうしてカラス達は、住処にしている森を目指しますが。


「このキンピカ、よく動くなぁ。ところでこれは何なのだ? 金属か? 宝石か? まるで生きてるみたいだ」

「卵に見えなくもないが、こんな卵を産む鳥は聞いたことないぞ」

「まずいぞ、みんな、もう真っ暗になってしまう!」


 夜が忍び寄り、暗闇に染まり始めました。暗くなっては、カラス達は上手に飛ぶことができません。急いで飛べば、帰ることはできるかもしれませんが、重く、また動く「キンピカ」を運んで帰るのはひどく難しく思えました。


「仕方がない、ここに隠して、明日取りにこよう」


 カラス達は一度、樹の下に竜の卵を置きました。近くにあった木の葉や枝を集めて覆い隠します。

 それからカラス達は急いで住処へ帰っていきました。

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