第15話 商売上手な夏子さん
「んん…………どこだ……ここ…………う゛う゛、頭いたい…………」
ズキズキとする頭を押さえて周囲を伺ってみる。ダンジョンを攻略するようになってから、ボクは索敵の重要さを思い知らされたのだ。
どうやらここは自分の部屋のようだ。昨晩は初めての合コンでガブガブとお酒を飲んでいた気がした。そうだ、変態お姉さんの舞子さんに日本酒を注がれまくったのだった。
「…………お尻に違和感なし。セーフ」
思わず自分のお尻を触ってしまった。舞子さんが執拗にボクの可愛いお尻を狙って来たのだ。魅力を上げるとボクのお尻がプルンプルンになるのかもしれない……。
重い頭を我慢して起き上がってみると、枕元に鎮座する黒い物体を見つけた。それは見慣れた金庫パイセンだけど、昨晩はダンジョン攻略してないような?
「どうして金庫がここに……?」
ヤバい、全然思い出せない。合コンは結局男女のイチャイチャに発展する事も無く、最後は連絡先を交換して終わったはずだ。
ボクは昨日出掛けた恰好のまま寝てしまったらしく、ネックレスも装備したままだった。
「よし、まずは水飲んでシャワー浴びてこよう」
シャワーを浴びてリフレッシュしたボクは、テーブルの上に置かれたスマホがピコピコ光っているのに気が付いた。
「うわっ、舞子さんからの連絡が一杯ある……」
みんなと連絡先を交換したのは良いけど、ボクは舞子さんの魔の手から逃げられるのだろうか?
舞子さんのメッセージは後にするとして、まずは気になる金庫を確認しちゃおう。
「あれ、何だろう。絶対に前より軽くなってる」
もしかしてボクは力が上がっているのだろうか。握力計とかで記録を付けた方が良いかな。でも賢さが5のボクに判別できるだろうか……。
秘密の番号を入力して金庫を開けました。っていうかこれ、本当にボクがゲットした金庫なのか? 宝箱を開ける感じでワクワクドキドキである。
「…………カード?」
てっきり指輪でも出て来るのかと思ったらカードが出て来た。これは緊縛カードとは違うスペルカードである。ちなみに、緊縛カードの場合はカードの表面に『緊縛』という文字がありました。
そしてこのカードの表面には『やり直し』という文字があったのだ。
「やり直しカード…………やり直し?」
やり直しと言えばボクの大好きな漫画の作品がある。過去に戻ってヤリ直しってやつです。今の知識を持ったまま子供に戻ってあんな事やこんな事をするやつです。
もしかしたら違う機能かもしれないけど、これを現実で使う度胸は無かった。そもそも小学校とか中学校に良い思い出は無いのである。ギルマスに効果を聞いてから判断しよう。
という事で、このカードは押し入れに入れて金の剣と一緒に保管しておこうと思う。もし、もしもである。万が一にも舞子さんに襲われたら使うかもしれません……。そうか、昨日のボクは貞操の危機を感じてこのカードを持ち帰ったのか!
◇
日曜日という事で家事をしたりバイトしたり課題を片付けたりと、充実した一日を堪能して眠ったところ、いつものようにギルドへやって来た。
舞子さんからの熱いラブコールを頑張って処理していたら寝るのが少し遅くなってしまったのだ。おねショタ好きのお姉さんを望んだボクだけど、あんな特殊性癖のお姉さんが来るなんて思ってもみなかった。
「おう、昨日は惜しかったな。気合入ってて良かったぞ。この調子ならすぐに初級冒険者になれるだろう。頑張れよ」
「…………あ、はい」
ギルドに来てボクの顔を見た強面のマッチョマンから笑顔でお褒めの言葉を頂戴した。人を殺せそうな笑顔だったけど、ボクはもう慣れました。
記憶に無いけどやっぱり昨日の冒険はあったらしい。あのギルマスが褒めるなんて驚きである。もしかして別人ですか?
「そんな落ち込まないで大丈夫よ~。それに初級冒険者カードを拾った帰り道でモンスターハウスに巻き込まれちゃったんでしょう? もうちょっとよ、頑張りましょう」
「ありがとうございます、夏子さん!」
全く記憶にないけど、どうやらボクは10階で初級冒険者カードを拾って地上へと戻る途中で死亡したらしい。自力で5階までしか行った事がないボクが、オートプレイだとクリア寸前まで行けたのである。しかも死亡する前に持ち帰り金庫にアイテムを入れるファインプレーまでして。
もしかしてボク、毎晩泥酔すれば勝手に中級冒険者カードまで拾ってくれるのかな?
「えっと、昨日のボクってどんな感じでした?」
「昨日のお前だと? うーむ、アホっぽかったな……けどそれはいつも通りか。ふむ、そう言えばやけにテンションが高かったな。それに酔っ払っていただろ」
「そうね~、テンション高くてしきりに『ボクのお尻は安くないんですからねー。夏子さんでもダメですぅ~。触らせてあげませんからね~。メッ!』ってお尻を押さえていたわ。てっきりそういうプレイをして欲しいのかと思って触ろうとしたら逃げちゃったのよね。あれって何だったの?」
「ううぅ……何でもないですぅ」
どうやらボクは混乱していたらしい。気まずいので話題を変える事にした。
「そ、そう言えば『やり直しカード』って知ってますか? 効果を確認してなくて気になっちゃって」
「やり直しカードか、アレを使うとそのフロアに入場したところからやり直しが出来るカードだ」
「そうね~、罠とかで大事なアイテムを無くしたり、強敵に襲われて死んじゃいそうになった時に使うと良いわよ~」
「なるほどー!」
つまり階段を下りたところからやり直しって訳だ。ダンジョン攻略を1からやり直しって訳じゃ無いなら現実で使っても大丈夫かな? いや例え1時間でも数日でも戻れるのだったら競馬で大儲けしたりナンバーズ宝くじを当てたり出来そうだ。まあしばらくはボクのお尻が不安なので温存しておこう。
昨日のリザルトを確認したかったけど、どうやら冒険から帰って来ないと水晶玉が反応しないから確認出来ないと言われてしまった。なので頑張って攻略をしたいと思います。
フンスと気合を入れて黒いゲートに入ろうとしたところ、夏子さんに呼び止められた。
「あのねユウタ君、昨日の冒険でかなりお金貯まったわよね?」
「えっと、そうだったかな?」
記憶にないので残高が不明ですが、夏子さんは知っているらしい。
「あのね、私も売り上げが無いと困るっていうか~、良かったら買ってくれないかしら~?」
夏子さんが困った顔でボクにお願いをして来た。そう言えば夏子さんのお店でお買い物をした事がない。アイテムを持ち帰った事もない。これじゃ夏子さんが可哀想だった。
ボクは急いでギルマスのところへ向かう事にした。
「ちょっとギルマスぅー、お金降ろしたいですー!」
「なんだ急に。アイテム持ち込むのか? まあお前の金だから止めはしないが、初級冒険者カードを拾うまでは貯金する方が良いと思うぞ」
何やらゴリラが出し渋っていた。そうか、ボクが夏子さんに貢ぐのが気に入らないのだ。きっとギルマスはボクから巻き上げた金額で報酬を得ているのだろう。そりゃ残高が減るのに難色を示すのも頷ける。
だがしかし、ボクはゴリゴリマッチョよりもあらあらうふふなお姉さんの好感度を稼ぎます!
「全額おなしゃす!」
「……俺は注意したからな。ちなみに預けないでダンジョンに入って死んだ場合、半分しか戻って来ないからな」
「らじゃー!」
最後まで預金を降ろすのを
マッチョから引き出したお金は2023Gだった。ボクが覚えているのは3桁だったはずだ。つまり昨日、死亡する前に3000G以上稼いだってことか!? もうオートプレイでいいかな?
「夏子さんお待たせしましたー! えへへ、2000Gありましたよ~」
「あらあら、いっぱい貯めたのね~。今のユウタ君だとお薬しか売れないんだけど、2000Gあるならオススメはこれかしら~」
やっぱり夏子さんが正解だった。ゴリゴリマッチョに預けているだけじゃ経済は回らないのだ。
夏子さんがメニューを見せてくれた。
【お品書き】
・回復薬 250G
・上級回復薬 400G
・解毒薬 150G
・筋肉増強薬 500G
・倍速薬 350G
・目薬 150G
・毒薬 200G
・ラブリーポーション♡ 2000G ←オススメ♡
・混乱薬 150G
・睡眠薬 300G
・ワープ薬 100G
・劇薬 10000G
・幸せの薬 1000000G
えっと、幸せの薬って何ですか? 危ない薬ですか? っていうか劇薬って絶対ヤバい奴だよね? っていうかわざわざ手書きでオススメを書き足したけど、アレを買わせる気ですよねー!?
「あのあの、一番下に凄く高いやつがあるんですけど、どんな効果があるんですか?」
「うふふ、内緒♡」
夏子さんが唇に指を当てて可愛いポーズをしていた。くっ、可愛くてキュンとしてしまう。だけどボクはお客様なのだ、ちょっとくらいサービスしてくれても良いと思います。
だからボクもちょっとだけ意地悪しちゃおう。夏子さん相手にこんな事を言うのは辛いけど、心を鬼にしてガツンと言いました。
「そんな~。意地悪するなら買いませんよ~?」
「え~、そんな事言って良いのかしら~? 今日のオススメ商品を買ってくれたら凄いサービスしてあげちゃうのにな~」
「す、凄いサービスですか? 例えばどんな?」
「それは買ってからのお楽しみで~す。どうする? 買わない? 今日だけの特別サービスよ~?」
「くっ……分かりました」
「うふふ、毎度あり~♪ じゃあ用意するから待っててね~」
夏子さんはボクが太刀打ち出来る相手じゃなかった。でも凄いサービスを引き出したボクは駆け引き上手なのかもしれない。それに幸せの薬なんて絶対に買えないし、効果なんてどうでも良いよね。
どんなサービスなのかドキドキワクワクして待っていたら、奥の部屋から夏子さんが出て来た。でもその格好は……。
「じゃじゃ~ん。お待たせしましたお客様~、こちらが商品のラブリーポーション♡になります♪」
「うぇっ!? そ、それって本当に?」
黒いビキニ姿の夏子さんが胸の谷間にポーションボトルを挟んでいる。プルンと柔らかそうな胸から目が離せない。
スタイル抜群な夏子さんの水着姿だけでもサービス満点なのに、そのボトルをボクが取っても良いと言う。
前屈みになってボトルを取りやすいようにしてくれるけど、谷間が余計に強調されてドキドキしちゃう。
「ほらほら、おっぱい疲れちゃうから早く取って~♡」
「わ、分かりましたー!」
おっぱいが疲れるっていう発言は童貞のボクには刺激が強すぎた。おっぱいって疲れるんですか?
ボクは震える手でボトルを握り、ゆっくりと引き抜いた。キュポンという音が聞こえたような感じだったが、何故か黒い布まで取れてしまっていた。
「いやん、ユウタ君のエッチ~」
「す、すみませんー!」
ボクは慌てて自分の目を手で隠したが、夏子さんは胸を隠す訳でもなく堂々としていた。あのあの、ピンク色の突起が見えちゃってますよ!?
わざと胸をプルンと震わせた夏子さんが床に落ちた黒い布を拾い、ボクに見せつけるようにその場で装備した。
ああ、これが大人の女性か。ボクはまだまだ子供だと思い知らされたような気分になった。
「じゃあユウタ君、頑張ってね」
「ひゃいっ」
ボクの耳元でそう呟いた夏子さんから蜜のように甘い香りが漂っていた。
ボクは前傾姿勢で黒いゲートの前に進み、一度振り返った。
夏子さんの眩しい笑顔の後ろの方から、呆れ顔のゴリラがボクを見つめているのが見えた。
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