告白コンプリート!⇒後編

 残り一人。

 そう、宮本みるくへ、


「やったっ、あと一人でコンプリートだよ!!」


「…………楽しい?

 全校生徒から告白されたところで……この結果で、アンタはなにを得られるわけ?」


「達成感。あと、断ることで相手を支配した感じが、アドレナリンが出たみたいでね……これ、気持ちいいんだよね……」


 告白され中毒、と言えるのか?


 しかしあと一人なら、告白されてしまえば終わってしまうことになる……

 中毒者にはつらいところだ。


 その場合は、先生や他校にまで手を伸ばすのが彼女なのだろうけど。


「そうか……じゃあ、あと一人の生徒は……――」

「だれだれっ!?」


 勢い良くパソコンを覗き込むみるく。

 誤って操作したのか、一覧が消えてしまった。

 更新したデータは保存しておいたので問題はないのだが……、


「……今、隠さなかった?」

「なんのこと?」


「まあいいけど。ちらっと見えたし――

 あたしに告白をしていない最後の男子は……押上おしがみたけるくん?」


 運動部に入っていそうな名前だが、文化部である。

 囲碁将棋部……、だったはず。


 一瞬しか一覧を盗み見れなかったが、それでも細かく読み取っているところは抜け目ない『宮本みるく』らしい技だ。


「ふうん……、顔は真面目っぽいね……それに奥手っぽいから――

 最後になるのは仕方ないのかも」


「誘惑でもするの?

 その男子なら囲碁将棋の部室にいると思うから――顔でも出してくれば?」


 そうするっ! と、善は急げとばかりに部屋を飛び出していったみるく……、


 最初からついていく気など毛頭なかった片山きなこは、学校中に仕掛けておいた小型のカメラを通して、みるくの動きを観察する。


 囲碁将棋の部室にある一台のカメラに繋ぎ、まず彼を見つけた――押上たける。


 宮本みるくを嫌っている者はいない……これは前提である。


 そして押上たけるは、勝負であれば『勝ちにいく』タイプである……――つまりだ。


「告白しないことで、自分をマイノリティにさせている……

 今やマイノリティ以上に、唯一の存在だけど……」


 それが狙いなのだ。


 本気で勝ちにいくのなら、告白をするのではなく、告白をしないことで印象付ける方がいいと考えたのだ。


 もちろん、早い者勝ちが根本にあるので、負けやすいことは確かだ。本気で勝ちにいって、しかし手段だけを見れば『負けやすい』というのは、矛盾しているようで――

 だけど、はまれば強力な一手とも言える。


 王手でなくとも、懐には潜り込めたのではないだろうか。


 宮本みるくは誰もが認める美少女だ。

 しかも彼女自身が告白しやすい空気を作ってくれている……、つまり餌を垂らしている状態だ。食いついたところでデメリットがなければ、多くが噛みついてみるだろう。


 告白することで、仲が今よりは進展するかもしれない……――となれば、ダメ元でしてみてもいいだろう。


 みんながすれば、自分もしておくべきだ、と流される。

 告白して、断られてもみんなと同じになるだけだから――だから怖くない。


 でも、みんなと同じということは。

 多数に埋もれてしまい、宮本みるくの目には絶対に留まらなくなる――。


 だから、押上たけるはそれを避けたのだ。


 目に留まらなければ、勝負さえできない。

 告白は、舞台に立ってはいても、戦場には立っていない。

 宮本みるくと本気で通じ合いたいのであれば、戦わなければならないのだから……。


 舞台に立っても、彼女は絶対に本心を見せない。

 でも戦場なら? ……剥き出しの本音が見えてくる。


「たけるはアタシの、友達以下だけど、それでも弟みたいなものだからさあ…………、アタシには劣るけど、それでもやっぱり、『ズレて』るぞ?」


 宮本みるくを彼女にするために、彼がまずしたことは、蚊帳の外にいることである。

 自身も決して関わらない――いないものとして立ち振る舞う。


 相手を射止めるための行動とは思えないマイナス戦術。だが、積み重ねたそれが今になって効果を発揮している……。

 彼は知らないだろう、想い人がまさか告白のコンプリートを目指していることなんて(――いや? 想定くらいはしているかもしれないが……、それだけでも発想はぶっ飛んでいる)……。


 先を見通していたわけでなくとも、彼は今、宮本みるくにとって、『絶対に目を離せない』関係になっている。

 このまま彼が告白をしなければ、コンプリートをしたい宮本みるくは、彼を誘惑するだろう……毎日、毎日……気が済むまで……――否、告白されるまでだ。


 その間、恋人でなくとも、押上たけるは宮本みるくを独占できる。


 あとはもう、まな板の上の鯉のようなものだろう……。


「まあ、アタシの深読みかもしれないけど……、アイツが奥手だってのは本当だし」


 片山きなこは、自身がみるくより劣っていることは重々承知の上で、それでもみるくがいなければそこそこ整った見た目をしているのではないか、とは自覚しているが――

 そんなきなこが、まだ若い頃(だが、中学生時代である)に、たけるを誘惑してみたことがあった……、魔が差したのだ、本当に。


 彼は赤面しながらも、気がありそうではあったが、それでも最後まで手を出してはこなかった。そのまま、なあなあで終わり、進展がないまま――

 友達以下で、しかし弟のような関係性である。


 たとえチャンスが目の前にあっても、それを上手く処理できるかどうかは別の話だった。


「奥手にゴールは決められない…………、かもしれないわね」


 仲が進展するとしたら。


 宮本みるくが、音を上げて告白すること――だろうか。



 それはそれで、天地がひっくり返る大騒動になると思うけど。



 ―― 完 ――

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