高校時代に浮気された元カノと久しぶりに再会し、一夜を共に過ごした
石油王
元カノとこんにちは
第1話
オレには高校時代、最愛の彼女がいた――。
彼女の名は桜庭一途(さくらばいちず)。交際期間は十年ぐらい。
小学生の頃からずっと傍にいた。
バカップルほどではなかったが、他のカップルと比べて仲が良かった方だと思う。
週に四回は必ずどちらかの家に泊まりに行っていた。
デートはほぼ毎日。遊園地や水族館、動物園やデパート——近所にあるデートスポットは全て行き尽くした。
付き合ってから一度も揉めたことがない。特に倦怠期を迎えることなく、いつの間にか高校生になっていた。
ところが受験生になってから急に付き合いが悪くなった。
一途がオレを突き放すような行動を取り始め、避けられるようになった。
理由は分からない。別に受験勉強が忙しくなったわけではなさそう。
ただ何の前触れもなく愛想を尽かされた。
もしかしたら、オレが彼女の癇に障るような言動や行動を取ってしまったのかもしれない。
直近の出来事を必死に思い出し、やみくもに原因を探す。今思えば、人生で一番無駄な時間を過ごしたと思う。あんなに悩まなくても良かったのに。
「——なあなあ。お前、今も一途ちゃんと付き合ってるよな?」
「うん。一応」
「さっきさ、友達から聞いたんだけどお前の彼女、隣のクラスの“タクミ”と浮気してるらしいぜ」
「はぁ⁉」
俄かに信じ難い話だった。
名前通り健気で一途なアイツが他の男に現を抜かすわけがない。
最初はホラ吹きの友人が勝手にばら撒いた根も葉もない噂だろうと聞く耳を持たなかった。
しかし、噂を信じざるを得ない現場に運悪く出くわしてしまう。
場所は確か校舎裏。体育終わり。
授業で使ったサッカーボールを片付けようと体育倉庫へ行くと、一途と隣のクラスのイケメン男子(タクミ)が二人。堂々と正面から抱き合っていた。
オレはショックのあまり涙を零す。サッカーボールを放ってその場を後にした。
「——一途。昨日の体育終わり何やってた?」
衝撃的な光景を目の当たりにした翌日。一途を屋上に呼び出して、直接問い詰めることに。
「オレ、見ちゃったんだ。隣のクラスのヤツと抱き合ってるところ」
「……」
「アイツとどういう関係?」
「……」
「友達?」
「……」
「実は遠い親戚とか?」
「……」
一途は何も答えない。ずっと下を向いたまま微動だにしない。
噓でも否定してくれると信じてないのに、彼女は思考を放棄した。
「——ゴメン」
彼女の重たい口からやっと出た一言。だが、その一言は望んでいたものではなかった。
素直に自分の罪を認め謝罪され、当時のオレは激しく動揺した。
十年も幸せが続いたのに、こんな簡単に呆気なく終わりを迎えてしまうのか。
オレたちの関係は所詮、その程度だったのか。
特に怒りも、悲しみも、憎しみも湧かない。一切の感情を排した目で彼女を蔑んだ。
「別れよう」
「うん」
あれから彼女とは何も話してない。コツコツと築き上げてきた十年は全て無かったことになり、それぞれ平穏で退屈な日常に戻った。
高校を卒業して数年経った今、彼女がどこで何をしているのか全く知らない。別に今更、知りたいとも思わない。
オレにはもう関係のないこと。二度と会うことのない赤の他人なんだから——。
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