第15話

 あれから、日が過ぎていき、芹香、透、真奈美の試験が近づいてきた。芽衣はすでに決まっているから三人を応援すると言っている。

 方向性が決まった芹香も△○芸術大学の願書を提出して受けることになった。  


 そして、ある日の夜。

 夕飯が終わり、芹香がリビングでくつろいでいると母親が声を掛けてきた。

「芹香、良かったらまたお野菜を透くんの家に届けてくれるかしら?」

 母親の言葉に芹香はOKの返事をして透の家に向かう。

 透の家に着き、いつものように颯希が顔を出した。

「いらっしゃい!良かったら上がってって!」

 颯希に促されて家にお邪魔して、リビングで颯希とおしゃべりをする。そこへ、透がリビングにやってきた。

「来てたのか………。」

 透が芹香を見て言う。そして、更に言葉を発する。

「ちょっと、話があるから部屋に来てくれ。」

 どこか神妙な面持ちの透を見て、「どうしたんだろう?」と、感じながら芹香は透の部屋にお邪魔することにした。


 その頃、芽衣と真奈美は図書館に来ていた。真奈美は受験勉強の関係で、芽衣はよりよい小説を書くために心理学の本を読んでいる。二人が並んでそれぞれのことをしている時に、芽衣が不意に真奈美に尋ねた。

「そういえばさ、芹香ってバスケ部よね?スポーツ大好きには見えないけど、なんでバスケをしているの?」

 芽衣の言葉に真奈美は理由を話す。

「あぁ、それは透くんの父に言われた言葉がきっかけよ。」

「言われた言葉?」

「えぇ。透くんのお嫁さんになって欲しいタイプは心が強い子が良いかな?って、言われたらしいわよ。」

「じゃあ……。」

「透くんの父から『透のお嫁さんになりたかったら心を鍛えるために体を鍛えなさい』って言われたらしいわ。」

「それで、バスケを……?」

「まぁ、身長的にも向いているしね」

「………なんか、何と言っていいか分からない理由ね」

 真奈美の言葉に芽衣がどこか呆れたように言う。でも、すぐに微笑みながら言葉を続ける。

「でも、純粋な芹香らしいね。その言葉を信じてずっと続けているってことでしょ?」

「そうね。人の言葉を疑わないところが昔からあるわね。」

 真奈美の言葉に芽衣がちょっと考える。そして、不安を口にした。

「芸術大学に行くのはいいけど、ちょっと心配ね………。」

「確かに、一人にして大丈夫かしらとは思うけど、でも、一人立ちする良いきっかけじゃないかしら……?」

「そうね………。」

 そんな会話がなされていく。


 芹香が部屋に入ると、透が話し始めた。

「進路のことだけど、俺さ………」

 透がそこまで言って言葉を詰まらす。芹香が言う。

「透も芽衣ちゃんと同じ心理学部系に行きたいって言ってたよね。考察の勉強法をもっと深く知りたいって………。」

「その予定だったんだけど、俺、『警察特殊部隊専門学校』に行こうと思うんだ。」

「へ~、そんなところがあるんだね。じゃあ、そこに通う感じ?」

「まぁ、試験があるから受からないといけないんだけどな。受かったら俺は二年間家を出て寮で暮らすことになる。」

「え………?」

 透の思わぬ発言に芹香が言葉を詰まらす。

「透………、離れて行っちゃうの………?」

「二年間だけな………。」

 透の言葉を芹香はどこか現実じゃないような感じで聞いている。


 芹香の中で、透はずっと近くにいるものだと思っていた。それが当たり前で遠くに行ってしまうなんて、考えたことが無かった………。


 ぐるぐると芹香の中で想いが駆け巡る………。


 気持ちが整理できない………。


 透が遠くに行ってしまう………。


 芹香の表情で、透は芹香が何を思っているのか読み取れるがあえて何も言葉をかけない。


 

 時には突き放すことも必要なんだと自分に言い聞かせる。



 それぞれの気持ち、心配や不安が渦巻きながら、時間が過ぎていく………。


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