第13話


「芸大か~………。」


 カフェでのお喋りが終わり家に帰り部屋に入ると、芹香はそう呟いた。芸術大学は考えたことがなかった。でも、芽衣にもこんなに沢山の「いいね!」が来るという事がセンスがあるという証拠じゃないかと言われて、その選択もいいかもと思ってしまう。


(透の意見も聞いてみようかな………?)


 キッチンに行き、母に聞いてみる。

「ねぇ、お母さん。今日は透の家に行く用事ってない?」

「そうねぇ~………。あっ!じゃあ、自家製の漬物を持っていってくれる?すごく好評だったからね。」

「はーい。」

 夕飯後に透の家に持っていくことになり、母がその電話を入れておくということになった。


「こんばんはー!」

「いらっしゃい!芹香ちゃん!」

 夕飯が終わり、透の家に行くと颯希が出迎えてくれた。

「やっほー、颯希ちゃん。今日もパトロールしていたの?」

「うん!町の平和は私が守るのです!!」

 いつも元気いっぱいの颯希は敬礼のポーズをしながら楽しそうに言う。

「今日は、お兄ちゃんに用事って聞いたよ。」

「いや………えっと、その………なんていうか………。」

 なんとなく「透に会いたくて来たんだよね?」みたいな感じに聞こえてしまって芹香は顔を赤らめてしまう。その様子を颯希がニコニコしながら言う。

「芹香ちゃんって、本当に純真って感じだよね。」

「そ……そうかな?」

「だからだろうね、おに―――――」

 

 そこまで、言いかけた時だった。


「俺に用事があるんだってな。」


 後ろから声がした。振り向くと透が腕を組んでこちらを見ている。


「とりあえず、俺の部屋に来いよ。」

「う……うん。」


 透に促されて芹香が付いて行く。その時、透が颯希に振り向きにっこりと笑う。その笑顔に、颯希が恐怖で岩のように固まる。


 透のその顔からはいかにも「余計なこと言うんじゃねーぞ」というオーラが漂っていた。


「………で、俺に話って何だ?」

「えっと……その………」

 小柄でも威圧感のある透に気おされながら、芹香が芽衣たちとの会話を話していく。


「………なるほど、それで芸大な。まぁ、いいんじゃないのか?確かに写真撮るのは昔から上手だったし、その技術を磨くのは確かに選択肢としてありかも知れないな」

「そうなのかな………?正直自分ではピンときてなくて………。」

「まぁ、お金欲しさとか、名声欲しさで写真撮っているわけじゃないからな。そういった黒い部分が無いから、あんだけいい写真が撮れるんじゃないか?一度、チャレンジしてみるがいいというのも確かに分かるよ。まぁ、芸大に行くにしても試験はあるから受からないと行くに行けないけどな」

「うーん……、透も言うなら行くのもアリなのかな………?」

「まぁ、最終的な判断は芹香自身だからな。とことんやってみるのもいいんじゃないか?」

 透の意見も芽衣たちと同じことに内心信じられないと感じながら、同じ言葉を言うという事がより自分の写真の腕が良いことを理解していく。


「………やってみようかな?」


 透の家から帰ってきて自分のパソコンで芸術大学のことを調べてみる。すると、意外と自分の家から割と近いところにその大学がある事を知る。その大学の情報をより詳しく調べてみると、写真関連学部もある。説明を読んでいく内に、のめり込むようにその学部の魅力に飲み込まれていく。


 ――――――ピコン!


 そこへ、スマホが鳴り確認すると例のサイトから『コメントが届きました』というお知らせがきていた。その内容を確認するのにサイトを開く。


「………え?」


 そのコメントを読み、それを書いてくれた人がどういう人なのか調べてみる。そして、調べた結果………、


「えぇ?!」


 そのコメントをくれた相手に驚きを隠せなかった………。



 その時だった。

「芹香~!ちょっと手伝って~!」

 階段の下から母親に声を掛けられて下に降りていく。リビングに行くと沢山のアルバムと写真が散らばっていた。

「良かったら、写真の整理を手伝ってくれないかしら?」

 そう言われて、写真の整理を手伝っていく。


(あれ………?)


 そんな中、一つの写真に目がいく。幼稚園の頃の写真で芹香の左隣に透も映っている。そして、右隣には可愛らしい女の子が映っている。


(この子、名前なんだったっけ?)


 名前が思い出せなくて幼稚園の時に卒園式で貰ったアルバムをめくり、一人一人の卒園者の顔写真を指で追う。しかし、その子の写真が見当たらない。でも、写真で付けているバッチを見ると同じバッチだから同じクラスのはずだ。不思議に思い母親に尋ねる。

「ねぇ、この子って……」

 そう言うと、母が「あぁ」と言って話す。

「めいちゃんね!」

「めいちゃ………ん………?」

「えぇ、そうよ~。懐かしいわね。卒園する前にご両親の都合で引っ越ししたから卒園アルバムには載っていないのよ」

「え………」

「めいちゃんは同い年なのにしっかりした子でね~。よく芹香が遊びまわって怪我をするとすぐ飛んできて絆創膏を貼ってあげたりしてくれてたのよ。芹香よりひと回りくらい小さかったけど、お姉さんみたいな子だったわ」

「………ねぇ、お母さん。この子の苗字はなんて言うの?」

「えっと………、なんだったかしら?ひ……ひじ……?」

「土方?」

「そうそう!!土方芽衣ちゃんよ!!」

  

 母の言葉に芹香が唖然とする。


(芽衣ちゃんと幼稚園が一緒だったってこと?!)


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る