第2話
急激に距離を縮めていく透と芽衣に芹香はどこか焦りを感じていた。透と話が合う芽衣に羨ましさを感じている。部活も透と同じ文芸部に入ったことを知り気持ちがより焦ってしまう。それを横で見ている真奈美がアドバイスをする。
「そんなに気になるなら、話しかければ?」
真奈美の言葉に芹香はちょっと暗い表情で言う。
「だって、透に話しかけるなって言われているし……。」
芹香にしては珍しく弱音を吐く。そこへ真奈美が突っ込みを入れる。
「今まではそう言われていても平気で話しかけていたくせに、ここで怖気づくの?」
真奈美の言葉に芹香は何も言うことができない。
(このままでは気持ちが暗くなってしまう……。)
芹香はそう感じて勇気を出して話しかけることを決意した。
ある日の昼休み。
昼食が終わり教室に戻ると、透と芽衣が仲良くおしゃべりをしている。芹香がそこに声を掛けた。
「やっほー!透!芽衣ちゃん!何の話してるの?」
突然声を掛けてきた芹香に透が低い声で言う。
「話しかけるな、バカでか女。」
芹香の周りで吹雪が起こり、頭に雪が積もっていく。その芹香を放って透と芽衣は教室を出る。その様子に真奈美が声を掛ける。
「……そのままだと氷漬けになるわよ?」
真奈美がお湯をかけて芹香が正気に戻る。そして、芹香が小声でポツリと囁く。
「……広がり過ぎた溝ってもう埋めることも難しいのかな?」
透と芽衣が仲良くお話ししているのを遠くからしか見ることができなくなっている芹香は、心にどこか穴の開いた感覚に陥っていった。
そんな日々が続いた頃、珍しく芽衣から芹香に話しかけた。
「ちょっといい?良かったら一緒に来てくれる?」
そう言って、芽衣は芹香を屋上に連れ出す。
屋上に上がると雲一つない空が広がっていた。屋上のフェンスに芽衣が寄りかかって口を開く。
「阿久津さん、透くんと幼馴染みなんだってね。でも、透くんに全然相手されてないけど……。あのね、私……」
そう言って、呼吸を一つして真剣な目つきになって言葉を紡ぐ。
「私、透くんが好きなの。阿久津さんは『可愛い透くん』って言うだけよね?なら、私が透くんと付き合っても何の問題もないわよね?」
芽衣の言葉に何も言うことができないでいる芹香。そして、芽衣が更に言葉を投げかける。
「身長的にも私の方が透くんと釣り合うしね」
身長の事を言われて余計に何かを言うことができなくなる。分かっていた……。自分では釣り合わないってことに気付いていた……。そりゃあ、自分より小さくて可愛い芽衣の方が透とお似合いなのも分かっている。
「阿久津さんって、体は大きいのに気は小さいのね。私、透くんに告白するの。一応、あなたには伝えておこうと思ってね……。」
芽衣はそう言って去っていく。一人残された芹香は呆然として何も言葉を発することができない。
屋上で芽衣が去ると入れ違いに真奈美がやってきた。
「芹香!大丈夫?!」
真奈美が芹香のところに駆け寄っていく。
「クラスメイトから土方さんが芹香を連れてどっか行ったって言うから探していたのよ?!……芹香?」
真奈美は芹香に早口で言うが、芹香の瞳が暗い影を纏っていることに気付く。
「何があったの?」
しばらくして、落ち着きを取り戻した芹香がさっきの出来事をポツリポツリと話し始めた。
「……そんなことがあったとわね。ある意味、自分たちの邪魔をしないでね!ってことよね?」
「うん、だよね……。」
真奈美の言葉に芹香は項垂れるようにそう答えると、顔を両手で叩いて笑い顔を見せた。
「まぁ、仕方ないよね!確かに身長でいくと透と芽衣ちゃんの方がお似合いだし、話も合うだろうし……わ……私ではそりゃあ……無理……だよ……ね……。」
話しながらどんどんと涙目になっていく。自分の身長の高さを呪いたい感覚になる。でも、どうしようもないことだ。分かっている。分かっているがこの理不尽な身長差がとても憎く思えた。
その様子に真奈美が言葉を紡ぐ。
「……とりあえず、次の授業はサボり決定ね」
放課後になり、透と芽衣は文芸部に向かった。部室に入ると、芽衣はパソコンを開き小説の続きを書き始める。その横で透はある小説とノートとペンを出した。
「透くんって、ホントに登場人物の性格や性質を考察するのが好きだよね」
感心するように芽衣が言う。
そう、透の趣味は小説の登場人物を自分なりに考察して分析すること。そういうことをすることによって更に物語を楽しんで読むことができるという。芽衣は元々物語を書くのが好きなので気ままに物書きの真似事のような感じでお話を書いていた。透は真剣な表情でノートに考察したことを書いていく。その横顔を見ながら芽衣が言う。
「あのね、透くん。私……」
そう言って芽衣がある事を伝える。
透はその言葉に虚を突かれる。
そして、最後に答えた。
「……いいよ」
透の言葉に芽衣が笑顔になる。
「よろしくね、透くん。」
「こっちこそよろしくな、土方。」
そう言葉を交わして透と芽衣が握手をした。
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