第43話 お手本のようなお誘い③

 連れてこられたのは豪華な御屋敷。入り口には数人のメイドが列を成してお出迎えをしていた。

 さすが王族なんて思っていたら


「こちらはケーナ様のようなお客様をお召替えするための建物となっております。どうぞ気兼ねなくお使いください。何か御用がありましたらメイド共に命じていただければ結構でございます」


 ただ着替えだけの建物と聞いて唖然としてしまった。

 ここでハイドに会えるわけではなく、ここでは着替えるだけ。なんと贅沢な。


 竜車を降りるやいなやメイド達に囲まれてそそくさと部屋へと連れていかれる。


「まぁ、可愛いお嬢様ですこと」


「お化粧は最小限でも十分ですわね」


「お肌が若くてうらやましいですわ」


「どんなドレスにいたしましょう、迷ってしまいます」


「冒険者らいしですわ」


「まぁ、こんな可愛らしい冒険者は初めて拝見いたします」


 などなど。

 こちらの返事など聞く間もなく事が進んでいく。


 脱がされ、湯に浸かり、爪を磨がれ、髪を鞣され、着せられ、化粧され、髪を結い、完成まで滞りなく。

 こちらの羞恥心など気にも留めず、まるで着せ替え人形だった。


 私は最強クラスのスキルを持っていて負けることなど考えたこともなかったが、謎の圧力に負け意見の1つも言えず、全く何もできずに無力化されるとは思ってもみなかった。


 それでも最後に鏡を見せられ、私は私に魅せられてしまっていた。


 元は貴族のエーナお嬢様だ。どう転んでも可愛いのは分かっていたのだが、そのポテンシャルを最大限引き出してくれたと言っても過言ではない。


「やっぱり可愛いわですわね」


「冒険者にしておくのが勿体ないわ」


「そうよね、お顔に傷ができたらと思うと心配してしまいます」


「ハイド様の婚約者になるのではなくて?」


「まだわかりませんことよ」


「ハイド様ならきっと気に入ってくれますわ」


 などなど。

 最初から最後までよく喋るメイド達だった。


「「「「「「行ってらっしゃいませ、ケーナお嬢様」」」」」」


 お着換えの館を出ると、セバステが既に待っていてくれた。


「お待たせしてしまいました」


「いえいえ、それにしても素晴らしいですね。この若さにして品格を備えていらっしゃる。本当に王妃になられても遜色は無いように思います」


「そ、そんなに煽てても何も出ませんよ」


「……早くハイド坊ちゃまに……グスッ、会わせて差し上げとうござい、ます」


(ちょ、ちょっと涙ぐむなよ。変にリアルだろうが)


 今度は立派な馬車に乗り込むが、数分も経たずに目的地に着いた。

 敷地の入口にはやたらと多くの門番がいたのはここがそれだけ重要な場所だということだろうか。

 目の前にある屋敷も先ほどのお着換えの館と比較にならないほど大きくそして豪華だった。


 セバステの案内に従い、客間で待たされること数分、部屋にセバステとハイドであろう人物。


「初めまして、ケーナと申します……」


 ハイドはじっとこちらを見つめている。不敬な挨拶だったのだろうか?


(あれ……? 何かしちゃいました?)


 まだ挨拶しかしていない。

 最終的には真正面に立ち、目閉じて何やらぶつぶつと独り言。


 こちらもまじまじと見てみると、このハイドとやら15歳だが王族と言うだけあって堂々としてはいる。顔はそこそこだが、そこは女目線で好みの分かれそうな所だ。

 ただ唯一欠点を挙げるなら身長が足りてない、目線が私と一緒なのだから。


 心配したのが顔に出てしまったのだろうか? セバステが小声で話しかけてくれた。


「……もうしばらくお待ちください。大丈夫ですので……」



 次の瞬間脳裏に浮かぶ警告文字。


【見破りをレジストしました】


 カッ!!


 と目を見開くハイド。


「セバステ! よく見つけてきてくれた! この小娘生意気にも隠蔽を使いおるわ。だがそれを俺のスキルを持ってしても見破れない。相当だぞ」


 高鳴る興奮を抑えれずにいるのだろうか、鼻息がこちらまで届きそうだ。


「お気に召されましたでしょうか。嬉しゅうございます」


「それに、冒険者と聞いていたが、見ればこんなに可憐で美しくそして若いではないか。妾にしておくのも勿体ないぐらいだ」


(おいおい、妾は決定なのかよ)


「ケーナ嬢よ、ここに来てくれたと言うことは俺の婚約者になると言うことで間違いないんだな?」


「あの、一時的に ですよね?」


「そんな堅苦しいことは言わん。ずっと俺の傍にいろ」


 あぁ、なんと男らしい台詞。だけど王族の生活はややこしい事がおおそうだし、せっかく冒険者になったのにまともな冒険にまだ出ててない。


「嬉しいお話ですが、私は冒険者であることに誇りを持っております。今回は依頼期間のみ婚約者と言うこにしていただけないでしょうか?」


 ポンと浮かぶ警告文字。


【見破りをレジストしました】


「やはり見破れぬか、本心が分からんのは二人目だ。だがそれがいい。婚約者が無理でもせめて友人ではダメか」


「ご友人でしたら構いませんが、庶民と王族でそのような関係は何か心配事の種になりかねませんでしょうか?」


「なぁに、ほとんどの王族なんて兄弟ですら腹の底ではいがみ合っているのだ。王族同士で友を持つなどそれこそ無理な話だ。だからお前のような者が俺には合っている」


 幸か不幸かスキル見破りのおかげなのだろう。相手の本音が読めてしまう以上友人なんて無理なのだろうか。

 だからこそ、本音の分からない存在が必要なのかもしれない。


「最後に、この依頼受けた理由を今一度確認しておきたい」


「お金です。お金が欲しいです」


 じっと目を見つめるハイド


「嘘。……では無さそうだな。見破らなくても分かったぞ。冒険者らしいな」


 目は口ほどに物を言うと言うことなのだろうか納得してくれたようでなによりです。

 ただハイドもちょっと残念がっているようにも見えた。


 当日また会おうと言って部屋を出ていくハイド。

 どうやら偽装婚約者として合格だったようだ。


「それでは、他の者から当日までの詳細をお伝えいたしますので」


 共に部屋を出ていくセバステ。


 ふぅ、と一息ついてソファに座ると、後ろから声がした。


「お疲れ様でございました」


 いつからそこに居たのか分からないがメイドが1人立っていたのだ。

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