第25話 相席で会敵
「ケーナが帰ってきたニャ!!」
猫目亭の扉をまだ開けていないのに、中からミーニャの喜ぶ声が聞こえてくる。
そっとドアノブに手を掛けると、反対側からグッと引っ張られる。
「おっ帰りニャー!!! やっとやっと帰ってきたニャー」
「ただいま、ミーニャ」
ニッコニコのミーニャが出迎えてくれる。
ジーンとアテシアも一緒だ。アテシアは大規模な火事に気づいて森から帰ってきたそうだ。
「無事だったか、ケーナ。先に謝るがあの話アテシアには話をさせてもらった。なぜ一緒に避難しなかったのか問いただされてな……」
「アテシアさんでしたらかまいませんよ」
「聞いたよ。妙に気品があったのにも納得だ。あたしの若い頃に似ているんだからそれぐらいじゃないとな、ハハハ」
3人とも無事なようで良かった。
「皆の無事を見るのと私の無事を伝えに寄っただけで、すぐまた出ないといけないので」
「そんニャー。まだ来たばっかりニャー」
「コラッ、ミーニャ! ケーナを困らせるんじゃないよまったく」
「だってだってニャ……」
「大丈夫だよミーニャ。用が済んだらまた戻って来るから」
「約束やニャ」
「うん約束」
次に向かった先はカスケード家。
庭には数台の馬車が止まっていて父親が事後処理にでも追われているのかもしれない。
隠密スキルを使い自室まで戻る。もちろんそこにはもう一人の私が待っていた。
「そろそろ来ると思っていました」
「まぁ、今回の騒ぎは大きかったからね」
「また記憶を統合するのでしょうか」
「そうだね、今後のためにも知っておいた方がいいかも。ただ知り過ぎてることになるから上手く隠すんだよ」
使うスキルは前回と同じ。ナナスキルのフュージョンとコピーを手早くすすめる。
「こいつら、誰?」
コピーエーナの記憶にあった、龍人族と謎の男。
千里眼でずっと監視してくれていたみたいだ。
「今回の襲撃に裏で深く関わっていそうな2人です。おそらくオオイ・マキニドの者でしょうね」
「全然気づかなったよ。私の方が近くにいたのに……」
それだけ手練れということ。
そして龍人族と合流して話をする謎の男の方もしてやったりの笑顔になっている。何かしら得をしているのだろう。
「これだけカスケードにちょっかい出しておいて、ねぇ?」
怒りの感情が心の奥でうごめいてしまう。
「何をする気ですか?」
殺気でも感じ取ったのだろうかコピーエーナが心配そうにこっちを見てくる。
「ちょっと、挨拶してくるだけだよ」
空間転移魔法を展開する。行き先はオオイ・マキニドとの国境線になるべく近いところ。
転移後はオオイ・マキニドまで飛行魔法で飛んでいく。
記憶統合の副作用によって音の壁すら簡単に超えるスピードが出せる。
3重、4重の魔法使用も息をするのと同じぐらい簡単だ。
フュージョンを使うたびにステータス値が倍になってしまので思っていたより早く最大値に達するだろうなと…… たぶん。
飛んでいく先はカスケードから比較的近く大きな都でイイコタキヤという。
(偉そうな奴も、悪い奴も、人の集まるところにいると思う)
そんな適当な予想でも当たるときは当たるのだ。
上空で探索を使用し表示させる情報を絞り込む。
条件は龍人族。
早速一件見つかった。
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ドラン 女 225歳 龍人族 Lv404
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(ステータスの改ざんはしてなさそう)
これだけレベルが高ければその必要もないのかもしれない。このレベルを知った人族が挑もうなんて思わないし、誰だって無駄死にはしたくない。
探索スキルのおかげで居場所がわかったので隠密スキルを発動させ一気に近づいて行った。
どうやら相手は食事中、とても分厚いステーキ肉を出してくれるお店らしい。店の外にまで肉の焼けるいい匂いが漏れ出している。
店内に入ってもまだ隠密スキルは発動したままなので店員に声をかけられることはない。
二人掛けの席で黙々と肉を頬張るドランの向かいの席の前に立ち隠密スキル解除した。
「相席いいかしら?」
肉に刺したフォークがピタリと止まり、咀嚼している口の動きも同時に止まる。
ゆっくりと顔を上げて私を見つめてくる。
「ふもっふ!」
口に肉を詰めすぎてるせいで上手く話せない。
「おっと、急に動かないでね。そのまま静かに」
相席の了解は得てないが椅子に座る。
店内は美味い肉のおかげで大盛況、私からすれば騒がしい。でもそのおかげで誰もこの席の違和感に気付けない。
「私はケーナ。私のこと分かるよね? ドランさん」
ぱちぱちと瞬きをしている。
「どうして私がここにいるのか不思議って感じかな? それとも名前を知ってることかな?」
カタカタとフォークが震え始めた。本能による恐怖は意思で止められないのだろう。
震える手に私の手をそっと添えてあげる。私は優しい。
「ねぇ、試しにこの手を振り払ってみてよ」
相手の左手の上に添えられた私の右手。
言われるがまま私の手を振り払おうとするが、力で抑え込む。
「遠慮してるの? それともここじゃ本気が出せない?」
一瞬本気を出したのだろうか、すぐ諦めたかのように脱力してしまう。すると今度は唇が震え始めた。顔色も良くない。
「さすが龍人族。たったこれだけのことで差が分かってくれたみたいで手間が省けるよ。あの男にも伝えておくんだよ。誰に喧嘩を売ったかって。わかった? わかったなら一度だけ頷いて」
小さく、でも確実にコクリと頷く。
私のレベルは3620になる。レベルだけならドランとの差は約9倍。
種族が違うので細かいステータスの差は違ってくるが、不意を突かれても負ける気はしない。
「私はもう帰るから、次会う時は敵じゃないことを祈っておくよ」
また隠密スキルを発動させて店を出ていく。
相手からしたら消えたかのように感じるのだろう、周囲をきょろきょろして私のことを探しているようだった。
時間がある時にでもここのステーキを食べようと思ったので、店の近くに空間転移魔法ための魔力によるマークをしておく。
「これでよし! あれだけビビってくれるならとりあえずは大丈夫かもね」
レベル404ともなると普段ならビビるなんてことはないだろう。
恐怖なんて久々だったろうけど感じ取ってくれたらそれで十分。
ただあれだけ強いのにもかかわらず人族に仕えているのが違和感に感じたけど、200年も生きていると色々な考えがあるのだろうか。
案外美味い飯にありつけるからってことかもしれない……。
一通りの用事が済んだのでミーニャのもとへ帰りいっぱい癒してもらおうと思った。
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