第3話 貴族の少女②

 奇跡の復活劇から1週間が過ぎ、最初は自分の可愛さに戸惑う事が多かったが、体に心が引っ張られくれたのかエーナの体にも徐々に慣れてきた。


 ろくに使わずじまいであった我がムスコと突然の別れも乗り越えて、今は性別についてはあまり深く考えない方向に決めた。


 神官に健康のお墨付きを貰ったのだけど、心配だからという事で暫く静養する事となった。

 

 レベルやスキルについて結局隠蔽は神官に見抜かれなかった。病耐性Dを褒められて、今回の病気が元で付いた耐性かもしれないとも言っていた。

 逆に神官を鑑定眼で覗いてみたところ、スキルに診察Eがついていただけ。老けた神官だったので凄いステータスなのかと期待もしたけどレベル40で数値もパッとしなかったのだ。

 

 今はラルンテが付きっきりで側にいてくれるけど、これと言って話す事無い。

 庭ぐらいにしか出ていないので、外出したいなぁなんて思っていたところに、相変わらず賑やかなお姉様ズがやってきた。


「「エーナ!お茶しましょう」」


 最近ホットな話題はお姉様ズの嫁ぎ先についてだ。2人とも今年で18歳。


 18歳前後で嫁ぐのがここでは常識になっているようで。家督はどうせ長男のヨルガルドが継ぐのだから興味がないらしい。

 18歳で成人とされるこの世界では16歳の兄では正式に後継者としては見なされない。それでも長男への期待はどこの貴族でも一緒のようで、日々父親の傍で勉強を重ねている。


「リーナはいいわよね、あの伯爵の顔見たでしょ。私好みじゃ無いわ。まだそっちの男爵の方が好きになれそう」


「ユーナの方が羨ましいわ。伯爵でしょ? 私なんて男爵に嫁ぐのよ。顔には興味が無い私にとってはただの成金は論外よ」


 お互いに無い物ねだり。と、悪知恵を1つ思いつく。


「姉様達は、顔はもちろん、声も、体型も、首筋のホクロの位置まで一緒なんだからお互いに入れ替っちゃえばいいじゃない?」


 毎日会うお付きの専属のメイドですら、入れ替わりの悪戯して騙せるほどのレベル。

 もしかしたら母親にはバレるかもしれない。しかし、そこでバレなきゃ父親には絶対バレないし、結婚相手にもバレるわけない。

 ちなみに鑑定眼の前では通用しないが、エーナにとってはユーナとリーナを見分けるのはスキルが無くても出来ることだった。

 お姉様ズは暫く目を合わせている。2人にしか分からない会話だ。


「……エーナそんな事言っちゃダメよ。」


「……そうよ。エーナにはバレちゃうもの」


「「ウフフフ…… 」」


 微笑みから漏れる企みが、メイド達をざわつかせる。他人が2人を見分ける方法はドレスの色、髪飾りの位置ぐらいだ。

 その条件が無い場合当人とエーナ以外は見分けられない。それを姉様ズは知っている。


 過去に姉様ズのお披露目兼16歳の誕生日パーティーがあった時、ユーナもリーナも同じメイクに、同じドレスに、同じヒール、同じ髪型に、同じ髪飾りと小物も全て一緒にしたのだ。

 

 元々美人な姉様ズ。


 鏡写しの妖精だ!


 とか 


 双子の天使だ!


 とか、集まった男どもに大いにもてはやされていたのを記憶している。


 そして、事件が起きる。

 お父様が姉様を紹介しようとした時、言葉を詰まらせ


「ほら、ご挨拶をしなさい」


 と促したのだ。


 普通なら父親から名前を告げるのだが、色分けされてない娘の姿に戸惑ったのだろう。


 そこで先にユーナ姉様が


「リーナ・カスケードです」


 と挨拶し、続いてリーナ姉様が


「ユーナ・カスケードです」

 

 と挨拶したのだ。


 会場で疑問をいだく者は私を除いているわけもなく盛大に始まり、そして最後まで何事なくおひらきとなったのだ。


 パーティーの後に、

 

「なんで名前を逆に言ったの?」

 

 と2人に聞いたら


「「エーナには勝てないわねー」」


 と返された。

 そして姉様ズ曰く、パーティー会場では招待者の誰一人として名前で呼んでこなかったらしい。

 もし呼び間違えたら大変失礼になるし、運命の糸も即切断だ。

 そんなリスクを背負うより、どちらでもいいからお近づきになりたいと下心丸出しの奴らばかりで気分が悪くなったとか。

 2人にとっては最悪のパーティーになってしまったのである。


 また別の日に、エーナが2人を見分けていることに母親が気づいた事があり、


「何を見て見分けているの?」


 と聞かれた記憶がある。


 ユーナはユーナだから、リーナはリーナだからでは、説得力に欠けるとわかっていたので、先に話すのがユーナ、先に動くのはリーナと答えた。

 何やら納得してくれたけど、2人が一緒でいるときにしか通用しない見分け方なのだ。


 本日のお茶会は何事もなかったように終わったが、その日を境にちょこちょこ姉様ズが入れ替わっていることに気が付いた。

 まずは入れ替わりが本当にバレないのか、悪戯ではなく本気でやってみているのだと分かった。

 案の定メイド達はまんまと騙され、それまで母親が頼りにしていた見分け方も通用しなくなっていた。


 きっかけを与えてしまったのは自分なので責任を持とうと、なるべく演じている名前で呼ぶようにしていた。


 その後、姉様ズは入れ替わったまま、同日にそれぞれ嫁いで行ったのだ。

 

 見送る間際にこっそり耳打ちして、それぞれの本当の名前を呼んで


「――いってらっしゃい」


 と囁いたら、どちらも悔しそうにそして


「「勝てないなー」」


 と言ってはにかんでいたのはいい思い出だ。

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