教室の重い雰囲気

ゴールデンウィークは、その子の事は忘れるようにした。



せっかくのゴールデンウィークだし。



彼とのデートでカラオケをしたり、水族館に行ったり、映画を観ながらポップコーンを一緒に食べたり。

映画のチョイスは洋画の恋愛映画。

主人公の恋人は、病気で死んでしまうんだけど、彼女の方は、彼が残してくれた想いと思い出を胸に前向きに生きていく物語だ。



すごく楽しかった。



このまま、ずっと学校が始まらなければいいのに…。

って思った。




あれから、その子からは連絡は来ていない。



きっと、向こうもどうでもいい存在だったのだろう。




夢に描いていた高校生活が

バラバラになった。



明日から学校が始まる。




夜になり、ベッドに入った。

眠くない…。

明日なんて来ないで…。

そう思ってお布団に顔を埋めた。


そんな願いも叶うはずもなく

かならず明日は来るのだった。



思い足取りで教室の前に着いた。



ドアを開けると

そこには、私が望んでいたものとはまったく違うものだった。



とても重苦しく、身動きの取れない空気に包まれていた。



クラスの女子がこちらを見ている。



話をしていた者は話をやめて

私を軽蔑するような目で見ていた。



『えっ……』

私は言葉を失った。


何なの…

この重い空気は…


そう思いながら誰にも挨拶せずに席に着いた。



私は、よく人の雰囲気が分かってしまうのだ。

ピリッとした空気感とか

拒絶されてる空気感とか

他にも、楽しい空気感とか…。


それがよく分かってしまうのが辛い…。



きっと、誰かがその子とのケンカを人づてに聞いていたのだろう。



それを言い触らした人がいたのだろう。




そして、その言い触らした人は

すごく近くにいた人物だとは気づきもしなかった事だろう。



なんせ、その人物とは少しの間

一緒に行動していた人だったから。


席に着き、1限目が始まった。

重い空気の中、

教科書を開き、私は、顔を下に向けた。


『どうして…?

なんでこうなったの…?

その子とのケンカなのに

どうして、クラス全員がそんなひどい目で見るの…?

私が、ケンカしたから…?

でも、みんなケンカくらいするじゃない!』


そう心の中で思った。



そしたら、勝手に目から涙が溢れてしまった。


急いで、ハンカチで涙を拭いた。


けれど鼻をすする音だけが教室に響いた。



誰も、私を助けようだなんて

しないんだ。


もう…ひとりぼっちなんだ…。



そう思ったら、よくわからないけど怖くなった。



チャイムが鳴ると

私は鞄を手に取り

足早に教室から出ようとした。



そしたら、その人物にこう言われたんだ。



「大丈夫?」

何も知らない顔をしてそう言ったんだ。



「うん。」

私は、ろくに顔を見ずに

教室から出た。



階段を足早に降りた。



そして、あの騒がしい学校から

抜け出した。



早退というものだ。

誰にも早退すると言っていないから早退と言っていいか分からないが、とりあえず学校から離れたかった。



今日は、家に帰った。

もし聞かれたら

体調が悪いとでも言っておこう。

そう思った。



『はぁ……』

明日、どうなるんだろ…

そう思いながら、ベッドに入りながらぼんやり天井を見上げた。



次の日

学校へ向かう。

いつの日か

こんなに足取りが重くなった。

学校…行きたくないな…。


教室に着くと、重苦しい空気は私だけだったのかもしれない。

教室には、いつもの騒がしい風景に戻っていた。



少しホッとすると

席に着いた。



そっと、その子を見ると

他の子と話しているようだ。

もう、他の友達が出来たんだ…


よく分からない感情がそこにはあった。


悔しいのやらホッとしたのやら

ムカついているのか分からない感情。



それに、私と居るときより

とても楽しそうだった…。



その笑顔が

何倍も私を痛め付ける。



どうして、私だけ…。



そして、どこにも居場所がなかった私は

その人物とその人物たちと一緒に行動することになった。



その人物とは、受験の時に

話しかけてくれた人だった。



受験で人を蹴落とすしかないのに

どうして、話しかけてくれるのだろう

素敵な人だな…とその時は

そう思っていたのだ。

その時までは好印象だった…。



入学式の時に会ったときも

話しかけてくれた。

でも、本性を知ったら

ビックリするぐらい好印象じゃなかったんだ。



リーダーシップを取りたがり

自分が一番じゃなきゃ気が済まない。

相談に乗ってる自分が素敵でしょみたいな。

相談内容を他人に言い触らす。


そいつのせいで私の高校生活がガラリと変わってしまったんだ。



暗黒の最低な高校生活がこれから始まる。


その子とは、距離を置いた。

素直に謝ればよかったのだろう。

でも、あの時は、顔を見ることすら出来なかったんだ。

無視をされたらどうしよう。

そんな思いだった。



その人物とは、お弁当の時と移動の時くらいしか一緒に行動しなかった。


きっと、向こうも都合のいい奴としか、思ってなかったのだろう。



どうしても、リーダーシップを取りたがるその人物が

心のどこかで嫌だった。

一緒にいるとなぜか苦しいのだ。


そう思いながらもなぜ一緒にいたの?って思うだろう。


それは、ただひとつの理由。



『ただ、一人でいたくなかったから…。』


馬鹿げた理由でしょ?



でもその時は、そうだったんだ。



高校なのに、友達ひとりもいない。

なんて、思われたくなかったんだ。



もしかしたら、好きになるかもしれないって思ってたから。


あっ…

友達として好きってことだよ…。



よく好きって言うと恋愛的にって勘違いされると思われるんだけど。

今回は、友達としてって事で。



まぁ、好きってことで後々誤解されるんだけど…。




だから、その人物と少しの間行動を共にしたんだ…



ゴールデンウィークが終わって少したった頃の話。



そして、新入生には

新入生の交流会っていうイベントがあるのだ。


はじめて会う人ばかりで

そんなすぐに仲良くならないのに

入学してすぐにそのイベントがあるんだ。


学校側からすれば、

その交流会で友達増やそう!!

いろいろな事を知って交流を深めよう!!

って案なんだろうけど。


そう簡単にうまく行くわけないじゃない?


他校から来る人だらけだし、

ましてや県外からたった一人で来た奴の事なんて

浮いた存在で相手にされるわけなかった。



よく聞く

田舎に行くと

県外から来る人は部外者扱いってことを。

すぐに受け入れてくれるわけではないことを、ここで知ったんだ。

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