無くした記憶の欠片を求めて。

藤咲 みつき

第1話 始まり、記憶を求めて。

1話 始まり、記憶を求めて。

 ミサトはいつもの習慣しゅうかん学校がっこう図書室としょしつ放課後ほうかごほんんでいた。

 毎日まいにち放課後ほうかご)下校げこう時刻じこくまでここでごすのが彼女かのじょ日課にっかである。

 お友達ともだちかえる、というのも選択肢せんたくしにはあるのだけれど、彼女かのじょはどうしてもほんみたいのだ。

 その理由りゆう)は、|本《ほん色々いろいろ場所ばしょれてってくれるからだ。

 ほんなかには、ミサトのらない世界せかいがいっぱいひろがっており、ほんむことで、登場とうじょう人物じんぶつ一緒いっしょ冒険ぼうけんしたり、こいをしたり、らないことまなべたりと、ほんには色々いろいろなおはなしまっていて、彼女かのじょ放課後ほうかごにその物語ものがたりという冒険ぼうけんへと旅立たびだつのがとてもたのしみで仕方しかたがなかった。

 今日きょうはどんなおはなし出会であえるのだろうと、授業中じゅぎょうちゅう、よくかんがえ、今日きょうもまた図書室としょしつへとあしれる。

 放課後ほうかご図書室としょしつは、西日にしびすにはまだはやいが、すこ夕方ゆうがたちかくなってきた時間じかんだと。

ひるやすみとはすこちがった雰囲気ふんいきっていて、さらに放課後ほうかご図書室としょしつおとずれるひとすくないため、気兼きがねなく、ほんむことができる、いわばミサトにとって天国てんごくのような場所ばしょだった。

「こんにちわぁ」

 挨拶あいさつをしてれると、めずらしいこと図書としょ委員いいんすらその姿すがたはなく、だれもいない空間くうかんひろがっていた。

 小学校しょうがっこう図書室としょしつとくひろくなく、こじんまりとしており、1つの部屋へやだけで完結かんけつしているため、ドアをければ全体ぜんたい見渡みわたせて、視界しかいにはだれうつらなければ、もはやりだということ一目ひとめでわかった。

 今日きょうりかぁ、とウキウキしながら図書室としょしつへとあしふみれると、ふと図書室としょしつなかにあるながしろつくえうえに、装飾そうしょくこ)った|少《すこ古臭ふるくさいようなほん一冊いっさつおかれていた。

「なにアレ」

 そうくちにしてちかづき、視界しかいにとらえ、あまりにった装飾そうしょくふるびたほんて、こんなほん学校がっこうになかった、ミサトはすぐにおもいたった。

 ミサトは、年中ねんじゅう図書室としょしつかよっていたために、ほぼすべてのほんえており、だいたいどこになんほんがあるかかっていた。

 だが、そんな彼女かのじょですららないほんいままえにあることに、彼女かのじょ自身じしんワクワクがまらず、周囲しゅういひとがいないこと確認かくにんする。

 おそらくこれは学校がっこう備品びひんではなく、先生せんせいだれかの私物しぶつで、すぐにぬしりにるかもしれない。

 でも、いてあるからには、どんなおはなしがそこにあるのか、ミサトはうずうずするこころ誘惑ゆうわくさからえず、そっとそのほんへとばす。

 ほんひらき1ページ視線しせんとしたそのときだった。

「え、なに?!」

 ほんみどりかがやきだし、ミサトをつつむと、ほんなかへと意識いしきがどんどんとまれ、やがてミサトの意識いしきはそこでぱったりと途切とぎれてしまったのだった。


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