冷酷なまなざし
その日の昼下がり、ナツはセイトを含む三人の部下と離れて、一人でレノを捜索していた。
そして、とある道端を歩いている途中、ナツは髪の長い女を見つけた。
髪をかき上げる姿が儚げで、異様な雰囲気を持つその姿につい見入ってしまった。
女と目が合った。
女は急いで目を逸らした。
しかし――ナツには遅かった。
女は『メドゥーサ』の能力を持っているギンジの妻マリであったから。
ナツは直ぐに石像化してしまった。
マリは急いで逃げたが、二日後にはMODSの部下であるジルに捕まってしまった。
部下であるジルから、ナツの石像化と、『メドゥーサ』であるマリを確保したとの報告を受けたセイトだが、なんら悲しみはしなかった。
セイトは一人で森の中の基地へと向かった。
基地の隅にはギンジの倒れている姿があった。セイトは真顔でギンジの脈を確認した。
――ない……な。遺体と石像はレノを捕らえた後に、一緒に持って帰るとしよう。……さあ、進めていきますか。
セイトの目的はナツの上を目指す目的があった。
それは――を明かすためだった。
レノを捕らえたMODS。
廃棄場から少し離れたところにタイムマシンは着陸していて、部下である三人はそのタイムマシンの中で待機していた。
「さあ、帰りましょう。君達はこれとそれを持ってくれたまえ」
タイムマシンに乗りこもうとしたセイトが地面に投げ捨てられてある石像と遺体を指さして言った。セイトはナツとギンジのことをもう人間と思っていない様子だ。遺体と石像。ただそれだけの感情だった。
「セイトさん……これって、隊長とギンジさんじゃ……」
セフィが戸惑いながらセイトに聞いた。
「ええ、そうです。このまま、置いておくと時空が歪むので。だから回収するまでです」
セイトは依然として表情を崩さない。
「それじゃ、隊長とギンジさんはもう元に戻らないのですか?」
エスが不安な顔を見せた。
「タイムマシンも燃料切れのようで、帰るのが精一杯となってしまいました。それと……」
セイトは一瞬の間を置いて、鋭い表情に切り替わり低い声で言った。
「以後、私が隊長となりますので。……慎みますように」
部下である三人は一斉に唾を飲み込んだ。
セイトの表情は冷酷で、一瞬にして場の空気を変えた。
MDOSの長はナツからセイトへと切り替わった。
MODSは二×△△年に戻った後、基地でマリの両眼をくりぬき、『メドゥーサ』の能力を奪った。その後、セイトは三人に部下に命令した。
「この資料の元、レノを改造してください」
セイトは五十枚程の資料をセフィ達に渡した。
――レノを機械化するために睡眠記録という機能をいれて、睡眠時の起こったことを記録しておくプログラムも組んでいる……。これで、何かの進展があれば良いのだが。
睡眠医学について研究を進めていた。
少しずつだがセイトは、夢についてわかるようになっていた。
――現実世界の他に夢の中にはもう一つの世界がある。その夢は現実世界と連動していて、私達の知らない間に現実世界は少しずつ変動している……。その夢の世界を……SPACE‐F‐と名付けることとでもしてみるか。
セイトは大学の一室に立てこもり、SPACE‐F‐についての論文を書き進めていった。
数週間後、機械仕掛けとなったレノを運んできたセフィ。
「よくやりました」
セイトは慎重に褒めると、セフィは嬉しそうにした。
「これから、このロボットに何かするのですか?」
セフィが尋ねた。
「ええ、眠りについてもらいます」
――眠りについたレノはSPACE‐F‐に辿り着くことだろう。そしてレノが記録してきた情報を回収し、この世界線の僅かな変動について真相を突き止めなければならない。それと……ミドリの病気についても……。
ミドリはもう十九歳だった。
十九歳のミドリはすっかりやつれていた。生きているのが不思議なくらいだ。
それでも生きる理由がミドリにはあった。
――十年前……誰かと約束したような……。今としっかり向き合う……と。
ミドリはその僅かな希望を信じて頑張って生きていた。しかし、精神は完全にズタボロになっていた。それもそうだ。十数年たっても病気は完治せず、病室という狭い空間に佇むベッドで、ただ横たわっていることしか出来ないのだから仕方がない。
――あの時のワンマカのキーホルダーはもうない。あれからSPACE‐F‐の夢を見なくなってしまった。見るのは何も面白くないただの夢だ。つまらない。
昼食を食べている最中、ミドリは深い眠りに襲われてしまった。
クラッ……。
眩暈がした。
そして、バタンと音を立てて、床に倒れこみそのまま眠りについた。
再び、SPACE‐F‐で集まったメンバー達が集結することも知らずに。
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