ミッドナイトミッション SPACE‐F‐

有馬佐々

わんわんまかろん

わんわんまかろん

 そう、それは、ガラクタの集まりみたいな心だった。




二×××年 七月十九日




 放課後、教室には西日が差し込み、夏の暑さが広がっていた。太陽の熱がこもった教室は、妙に息苦しさを感じさせる。一週間後に始まる夏休みを、どう過ごすかで話が飛び交っていた、そんな中談笑していたクラスメイトの一人が、ある噂話を話しだした。


「――二学期になったら転校生がくるらしい」


 それを聞いて、周りは一斉に騒がしくなり始める。


「女の子?男の子?」


「女らしい」


「やったね、可愛い子だと良いな」


「美女だったらどうしよう~」


「絶世の美女期待!」


クラスの男子達がはしゃぎだす。夏休みの話はすでに忘れられ、転校生の話題に花を咲かせるクラスメイト。その斜め後ろ、廊下側の席で一人机に伏せる男子、『片桐ミコト』が音楽を聴きながら寝ていた。


 ドーーーン‼


 騒々しい物音が鳴り響いた。


どうやらミコトが笹森ユースケの勢いある体当たりを受け、教室の外へ飛ばされたようだ。


「いってぇ……」


「おいおい、転校生だってさ。おい、お~い!」


図太い声が向かうその先には。廊下にうつ伏せになったミコトの姿があった。




「毎回鬱陶しいな」


床に手を付けながらミコトは体を起こし上げ、ぶっきらぼうに放つ。


「もう、何回攻撃すれば友達になってくれるの?」


 ミコトに構ってほしいユースケは、毎日このような騒ぎを仕掛けている。


「攻撃で友達になるバカが何処に居るんだよ。そもそも、俺は友達を作る気はない。笹森、じゃーな」


机に戻り、無関心に帰り支度を始めるミコト。


 入学式を上げてから四ヶ月が過ぎた。周りはとっくに友達を作っていたが、ミコトはまだ友達を作っていなかった。


季節はもう七月半ばで、もう少ししたら、学生達が青春を謳歌する夏休みが始まる。


 入学当初、話しかけてくれたクラスメイトも、ミコトの素っ気ない態度を見ていくうちに、次第に近寄ることも殆どなくなってしまった。


 わざと素っ気ない態度でクラスメイトをあしらっていたが、一人だけまとわりついてくるのがユースケであった。


 運動神経だけが長所の、体育会系のユースケだが、クラス一のバカと唆されていることが多大なる弱点であり、上手く教室に馴染めずにいた。


クラスの端っこで、いつも音楽を聴いているミコトを見て、ユースケは同じニオイを感じたのか、いつもミコトと話をしようと毎日やってくる。


 ユースケは「今日も失敗……」と教室を出ていくミコトの後ろ姿を物惜しそうに眺めながら、小声で「じゃーな」と返す。


 玄関で靴を履き替えるミコト。その隣で、二人の女子生徒が楽しそうに会話をしている。


「昨日のCM見た?」


 ショートヘアの女子生徒がもう一人のミディアムヘアの女子生徒に聞く。


「見たよー、ワンマカのガチャでしょ?」


 ミディアムヘアの女子生徒が答える。


何となく聞いていたミコトの表情が一瞬にして切り替わる。


女子生徒二人の会話は、ゲームアニメの"わんわんまかろん"通称『ワンマカ』の最新版グッズのガチャが発売されていたことを思い出させた。『ワンマカ』は戦闘ゲームとして二年前にヒットし、半年後アニメも放送されたゲームアニメ作品の一つだ。タイトルの割には血生臭いシーンも多いとギャップを呼んでいて、ワンマカの新情報が出るたびにSNSを賑やかにさせている流行作品だ。


二年前のソフト発売当初からミコトは『ワンマカ』に目をつけていた。それ故、新グッズが出たらいち早く手に入れたいところであった。


 学校を後に、早速、最寄りのコンビニへ向かう。コンビニの外壁に沿って並んでいたのは、目当ての『ワンマカ』の最新ガチャだ。


ミコトは財布の中をじっと見つめる。中には四百二十三円しか入っていなく、一回三百円のガチャは一回しか引けそうになかった。ミコトは暫らく悩んでいたが、やがて決意したように財布から三百円を取りだす。金色のレアアイテムが入っているかもしれないという噂もあった。ミコトはその金色のレアアイテムを狙いに、コインを三枚入れて、ガチャを回した。ガチャの回し口は微妙に硬かった。


 カラン。


 ミコトはガチャを開ける。


 残念ながらアイテムの色は青色。


 青色のマカロンに、犬がちょこんと乗った、可愛い絵が描かれたキーホルダーだ。金色のレアアイテムはただの噂だったんだ。苦笑と共に軽く溜息をつき、暮れの中、ミコトは再び帰路へついた。


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