第13話 抱き合うということ
そして、丞の余命が分かった夜から、丞と呼音莉は毎晩、毎晩、抱き合った。しかも、一晩に何度も。
呼音莉には、分かっていた。これが、丞の、生きている証明になるのだ、と。自分を使って、自分の生きていた事実を、自分の生命を、残したかったのだ、と。
「…ん…くん…汀くん」
「?」
汀は、やっと目を覚ました。
「良かった…。もう、目を覚まさないかと思った…」
「馨ちゃん…。!丞は…!?馨ちゃん、また、丞に…!?」
「大丈夫。今はまだ、生きてるわ。汀くんのおかげね」
「僕の…おかげ?」
僕は、自分の状況を把握するのに、ずいぶん、時間がかかった。
「汀くんが眠っている間、見ていた夢は、私の記憶。前世の…ね」
「丞は…死んだの?」
「えぇ…。随分と、長生きしたわ。余命1年とされていたけれど、4年生きたわ。彼が言うには、私の生気を吸い取ったからだって…」
「馨ちゃんの生気を!?なんで、そんなことが!?」
「私と体を重ねることで、彼は、悦びを知った。快感を知った。世界が広がったんだわ…」
「そ…んな…。じゃあ、もしかして…」
「そう。私の命は、短縮されて行ったの。抱き合う回数を重ねるたびに…」
「そんなのって…、そんなのって…!」
僕は、怒りに打ちひしがれた。丞を、許すことは出来なかった。すきな人を、すきな人なのに、その人を抱くことで、自分の命を延ばそうだなんて…。
何が延命治療は要らないだ。何が入院はしないだ。結局、自分の我を通して、馨ちゃんを…呼音莉ちゃんの命を、弄んだだけじゃないか…!
その時、僕は、馨ちゃんの言葉を思い出した。
『私は、丞をアイシテル…』
「馨ちゃん、呼音莉は…それでも、丞を…すきだったの?」
「どう…かな?少なくとも、私は、今、丞を、愛しているの…」
「!?な、なんで!?」
「私が…丞を、裏切ったから…」
「裏切った…?」
その晩、4回目のセックスを終え、呼音莉は自分の部屋に戻ろうとした。その時、柾が、自分の部屋から出て来た。
「…起こしちゃった?」
「ううん。いつも…寝てないよ…」
「そう…」
「呼音莉ちゃんは、これで良いの?」
「って言うと?」
「分かるだろう?丞は、君の生気を吸い取る為に、延命治療も、入院も拒んだんだ。君を、抱き続ける為に…」
「私は、丞くんの許婚だよ?遅かれ、早かれ、彼に抱かれるのは、決まっていたこと。何も、不満はないよ?」
「僕とも…セックスをしてくれない?」
「…それ、本気で言ってるの?」
「冗談に…聴こえる?」
「どうして?あんなに弟想いの貴方が…、丞を裏切るような真似を…、何故、したがるの?」
「分かって…聞いてるんだろう?呼音莉ちゃん」
「…復讐…かしら?」
「多分ね…。僕には、自分の思う理由がそれしか思い浮かばない。でも、紋のことがすきなのも、本当なんだ。こんな僕に、抱かれてくれる?」
「それが、私にも出来る、丞への復讐でもある…わね」
「私は、柾にも抱かれたわ。彼のセックスは、丞とはまるで違った。優しくて、丁寧で、温もりがあった…。声を…上げることすら…無かった…。だから、丞には、気付かれない…はずだった。けど…」
「いっ!!」
その夜、丞のセックスは、今までと比べ物にならないほど、拷問にも近かった。
「はぁ!はぁ!はぁ!ん!あ!くっ!」
「なんで!?」
セックスをしながら、丞は、呼音莉に強く問いただした。
「…ん!な…なんで…って…?」
「なんで、柾に抱かれたか聞いてんだよ!!」
「んあっっ!!痛い!!」
「神来社呼音莉、お前は、俺の許婚だろう!!俺だけを、愛してろ!!」
そいうと、強引に、入れ、腰を激しく振った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます