第9話 前世の記憶
―46年前―
「丞、
「呼音莉ちゃん。今日から、ここが貴女の家よ。何も遠慮は要らないわ。食べたいものも、着たい服も、習い事だって、なんだってすきなように言ってちょうだい。あ、それから、私のことは、お母様、と呼んで」
「…はい。お母様。本日から、よろしくお願いいたします」
「そおぉ!!貴女は丞の許婚に相応しいわ!!」
美衣子は、大袈裟に呼音莉を褒める。
「お母様、なんで、丞だけなの?僕は?」
「柾、貴方には、また貴方に相応しい許婚を見つけるわ。この子はね、競争が激しかったの。12歳で、英語は堪能、施設でも、とびっきりの頭が良かったのよ。お母さん、沢山お金を積んで、この子を養子にしたの。本当に、勝ち取れてお母さん、鼻が高いわ」
「来いよ。神来社呼音莉。俺の部屋に案内してやる」
丞はそう言うと、来たばかりの呼音莉の手を引き、自分の部屋へ連れて行った。部屋に入るなり、丞は、ベッドに寝っ転がると、こう、ぼやき始めた。
「お前、自分が利用されてるってわかるか?」
「…」
「わかってないのか?」
「…」
「なんだよ。なんか言えよ」
「丞くんは、どうして、そんなに悲しい目をするの?」
「え?」
「なんで、私と許婚になりたくないって、言わないの?」
「…なんで、そんなことわかるんだよ」
「だって、私を見る目が、全然すきって目じゃない」
「当たり前だろ。お前、馬鹿なの?会って初日ですきになるやつがどこいるんだよ」
「私にはわかる。丞くんは、私を、すきにはならないよ。一生」
「…かも…知れないな…。でも、なんで、そう思うんだよ?」
「だって、すきな子が、いるでしょう?」
いきなり核心をつかれた、丞は、まじまじと、呼音莉の顔を覗き込む。そして…、
「でも、俺は、自分のすきな奴を、諦めないといけないんだ…」
呼音莉を見つめ、ボソッと呟いた。
「それは…私をすきなると言うこと?」
「…聴こえてたのかよ…」
「かなりの大きなひとりごとだったよ」
「そうか…悪い…」
「謝る必要はないけど…」
「神来社呼音莉は、俺で良いのかよ?兄貴だっているんだぞ?柾は俺と違って、優しくて、寂しがり屋だ。特にすきな女の子もいないみたいだし…。許婚になるなら、あいつの方が良い…」
「アドバイスをありがとう。でも、お母様は、私を丞くんをの許婚にしたいみたい。きっと、お兄様より、丞くんの方が、優秀なんだね」
「よく分かるな。神来社呼音莉。お前は、頭が本当にいいんだな…。双子でも、俺と柾は、秀才と凡人として生まれてきてしまったんだ。あいつに…罪は無いのに…」
「そうか。だから、あんなに悲しい目をしたのね。丞くん。でも、丞くんは、お兄様の為に、すきな方を、諦めよとしているのでしょう?」
「!」
またしても、図星だ。
「そして、それを、お兄様は、自覚しておられない。そうでしょう?」
「どうして…」
「お兄様は…丞くんの、近しい人をすきなのでは?だから、何となく、丞くんのものだ…と言う考えが働き、最初から、すきだと言う感情をお捨てになっているのでは?」
「神来社呼音莉、お前は、一体何者だ?」
「…IQ240の12歳です。私には、どんな嘘も、隠し事も、見えないことさえも、見えてしまいます。それくらい、私の能力は、IQだけで計れるものではありません。一般的に言う、千里眼、みたいなものも、持ち合わせているのかも知れない…と、最近自分でも思います」
「俺は、神来社呼音莉、お前を許婚にする」
「…いいのですか?後悔、先に立たず、ですよ?私を、普通の女の子と思ってもらっては困ります。きっと、貴方の想像をはるかに超える、思想を持っていると思います。それは、狂気にも似たものです。貴方を、不幸にするかも…」
そう続けようとした時―――…、そっと、丞は、呼音莉にくちづけをした。
「………お前は、少し、しゃべりすぎだ……」
「…それは、失礼。失礼ついでに、今日は、これで、挨拶は済んだことにして、部屋に戻らせてもらう。柾さんにも、ちゃんと、挨拶をしたいから」
「…あぁ…頼む…」
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