第46話 権能の使い方

 つい先ほどまで余裕をもってかわせていた王からの攻撃は、徐々にスピードが上がっていた。


「少しずつ力が体に馴染んできたな。そうやってかわしていられるのも今の内だぞ。さあ、いつまでもつかな?」


 攻撃することを楽しむような口調。

 時間経過で動きが少しずつ速くなってきている。

 エディカがいなければエルディーに城ごと葬ってもらうのだが、こっちには守るべきものがあるから仕方ない。


「ねえ、どうするの? 溝口。このままだと本当にまずいよ」


 河原にも少し疲れが見えてきた。攻撃は単純かつ大振りで、おそらく誰でもかわせるものだ。こちらから攻撃するスキもある。だが、威力や連撃がどれだけあっても回復し、こちらは当たれば一撃でおしまい。

 緊張感としてはかなりのものがあり、やはり戦い続けるには厳しいものがある。普通ならこのまま戦い続けるのは無理ゲーだが、その前に突破口を見つけてやる。

 それには時間が必要だ。フェイラと話す時間が。


「河原、少しでいい。一人で時間を稼いでくれないか?」

「ええ!?」

「お願いだ。少しでいい」

「まあ、いいけど。あんまり期待しないでよね? 知っての通り、この中じゃ一番あたしが弱いんだからね」

「わかってる。だが、頼りにしてる」

「少しだからね!」


 てとてとと一人王に向かっていく河原。

 少し程度のスピードアップ。そして、少し程度の疲労なら、河原がやられる道理はない。もちろん、倒すことはできないだろうが。

 しかし、今はそれで十分。


 俺は河原が攻撃をかわしたのを見てからフェイラに向き直った。


「フェイラ、溺愛の権能には、人にただ頼む以上の上があるな?」

「気づいちゃった?」


 やはり、ここにきても俺が自分で気づくのを待っているらしいフェイラ。

 今はそんなことを言っている場合じゃない。


「エディカの時には何か強力に使えた気がしたんだ。あれはどうしたらいい?」

「さすがにわたしもリュウヤの状態までは把握できてないからわからないけど、そうだなー。今の段階だったら……思い、かな」


 思い……? ただ頼むだけと違うのか?

 俺の状態か? エディカに使った時と他との違いがあるってことか……? それに今の段階ってことはまだまだ上があるのか。

 いや、それより今は違いを考えるんだ。時間はあまりない。考え、比較して思い出せ。


 なんだ? 年齢? いや、俺の年齢は変わってない。歳の差も多分違う。

 相手との関係。いや、他人に使うことも初対面でもあった。なんだ? 溺愛の権能。他の状態……。


 ……思い……?


「心からの、思い……?」


 ふっとフェイラの方を向いたところでこくりと頷いたのが見えた。


 今なら以前よりもわかる気がする。自分の感情が、他人の感情が。

 愛し、愛されるというのは、まだよくはわからない。それでも、少しは喜怒哀楽というものを以前よりは出せている気がする。感じられている気がする。

 そんな、人からすれば寂しい人生を生きてきたのかもしれない。

 だが、エルディーには恩があり、エディカは助けたいと思っていた。溺愛の権能は思いの力。想いを届ける力……! だからこそあの時、エディカに……。


「溝口! まだ? もうさすがに限界が近いんだけど」


 河原の言葉でふっと我に返る。河原は戦ってくれていた。

 こんな簡単なことに気づくのを待ってくれていた。きっと普通の人なら当然に持てる力を、俺は四苦八苦しながら使っている。

 しかし、気づけた以上はこの場を確実に切り抜ける。


「河原、来い!」


 普段の感謝の気持ち、今の感謝の気持ち。そして、これまでのことを労いたい。そんな思いで、命令でなく想いを届ける。

 ボケっとした様子で河原を俺を見て王のことを見ていないが、ふわりと飛んだ何かが河原に届き、よそ見しながらでも攻撃をかわしている。


「えっと、うん!」


 理由がわからず、一瞬戸惑ったように見えたが、河原に伸ばした手から出た何かが当たると、いつも以上のスピードで走ってきた。

 時々しか見ることのなかった満面の笑みで河原は走ってくる。


 出てきたのはハート。おそらく、この溺愛の権能の力の本当の形。助けたい、頼みたいという思いの力。

 本来なら相手を溺愛し溺愛される力なのだろうが、まだその段階までは届いていない。

 しかし、少し見えてきた。


「解決策が見つかったの?」

「ああ」


 あとは、ぶつける愛の形を定めるだけだ。

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