第28話 イルマット王国潜入調査:デューチャ視点

「くそう! 誰だ貴様は! エルディーはいないんじゃなかったのか! これでは今も変わらないではないか!」

「またエルディーか。エルディーエルディーエルディーエルディー。カバディか! 戦力がいなくなったからって簡単に侵入を許すわけないだろ?」

「ぐあっ! くそぉ。くそがぁ……」


「はあ、護衛って言うからラクな仕事かと思ったが、ひっきりなしに暗殺されてるじゃねぇかよ。しかも、外からみたいなやつもいるし、どんだけここのおっさんは嫌われてるんだよ。はーあ……」


 潜入成功。

 目の前で戦闘している男はわらわに気づいていない様子。

 探索や調査はわらわの専売特許。わらわを感知できるとすればエルディーや神のみ。わらわが気配遮断していても気づくのはさすがとしか言いようがありません。

 目の前の男も気づいている様子はありませんし、大丈夫でしょう。

 いくら優秀な人間と言えど、エルディー以上は現れていませんもの。


 しかし、目の前の男。要所を任されているようですが新顔ですね。以前の調査では見ませんでした。あれがおそらくエルディー不在の穴埋めなのでしょうが、実力は遠く及びそうにありません。

 軽く教わったというリュウヤ様たちの実力を見た限り二週間もあれば十分実力でしょう。


 もっとも、情報収集のために今戦わせた目くらましの兵が弱くしすぎたと言うのはありますが、こればっかりは仕方ありません。あまりに強くしすぎるとわらわの傀儡だとバレた時に面倒ですので。

 乱雑にその場に座り込んでいた男の様子に警戒が強いとは見て取れません。

 とりあえず実力が分かりましたし他の場所へ移動しましょうか。

 おや、


「しっかしここに来るやつは肩慣らしにもならないな。なんだったんだ? あの魔王軍だか、魔王国だかから攻めて来ていたのは。なあ?」

「本当ね。あんな危険な場所二度とごめんだわ。お給金もいいし、ずっとこの国で護衛をやっていればいいんじゃないかしら」


 二人ほど新しい影。

 声がした途端、男は立ち上がったところを見ると、敵。いや、剣を抜かないということは男の知り合い。

 魔王から攻められている国というとといくつか思い当たる国はありますが、一番近くではクニハイヒ王国でしょうか。では、あの二人は確実にそこからの兵。

 しかし、クニハイヒ王国はそんなに余裕がある情勢ではなかったように思うのですが。


「血まみれだね。山垣くん」

「おう。枝口はそこまでだな」

「うん。僕はまずまず。大槻さんは?」

「アタシは山垣くんと同じくらいかしら」


 見た限り、立場は対等のようですが……。

 戦力としては明らかに新たに現れた二人の方が強そうですわね。

 簡単にはスキルを予想できないところを見るに、相当優秀な方々なのでしょう。

 前のエダグチと呼ばれた方は二本の剣から簡単に二刀流とわかるのですが。


 ただ、新しく現れた方々を相手にしてもエルディーの教えがあれば二週間で十分でしょう。一人ずつ戦うだけなら一週間でもいいかもしれません。

 しかし、実力差があるはずのこの三人が対等に話せているのが気になりますね。

 エダグチという男、何か隠しているものがあるのでしょうか……?


「そうだ。なんだか今日、モヤっとしてない?」

「モヤっと? なんだそれ、全然しないが。みりあはどうだ?」

「いいえ、しないわ。なんのことだかさっぱり」

「そうかな?」


 もしかして、わらわに気づいている?

 いいえ、そのようなはずはありません。一度としてわらわを捉えた様子もありませんし。

 となると、直感が優れているのでしょうか。

 わかりませんね。わからないことを簡単に決めつけるのは危険ですね。


「お前の勘違いだろ? あっ、もしかしてあれか? 手柄が俺の方が多いから分けてくれってことか? 枝口の方には特にない言い訳ってことか?」

「やだ。そういうこと? なら、とりわけおかしなことを言っていても納得できるわね」

「だろ?」

「ち、違うんだよ。そんなつもりはなくて、本当にモヤッとしたんだ。水蒸気かもしれないけど」

「水蒸気って、ここにミスト出すやつないだろ。じゃあ、なんだろうな? ま、俺様たちの評価は正当な評価だ。受け入れろ。じゃーな。あんまり持ち場を離れてると、いくら成果出しててもおっさんうるさいからな」

「ええそうね。行きましょう」

「あ、待ってくれよ!」


 あまりチームとしては脅威になりそうもありませんね。

 連携ができるているとは思えません。

 このことは正直に伝えて作戦に役立ててもらうとしますか。

 わらわはいくらエルディーとそりが合わないとは言え、実力を認め合い協力はしますわ。

 リュウヤ様の進む道を邪魔するものは何がなんでも許しません。


 ドンッ! っと一段と低い音。

 同時に城が少し揺れた。

 正確に床の弱い部分を叩き、ひ弱な肉体で丈夫な建物に傷をつけた。

 これは……。


「チッ! くそう! 今日は鑑定の効きが悪い。なんでなんだよ! 一番弱そうだから、一番攻められない場所を任せられるし、場所ごとに評価方法が変わらないし! まあいい。今頃僕ほどの力を持たないクラスメイトたちは死ぬような思いをしているんだ。姫さんたちも僕たちがいなくて困ってるだろうし。フヒヒ。ああ、そう思うと心がスッとするな。冷静になれる」


 鑑定。

 どうやら珍しいスキルを持っているみたいですが、本人の実力不足が大きいようですね。

 あの男より上位の力を持つ者は鑑定できないようです。わらわたちからすれば問題ありません。


 他の場所もわらわの兵が攻め終わったようですわね。

 新顔として警戒が必要そうなのはあの三人だけ。


 しかし、魔王を調べようと思うと大変でしたが、この程度、わらわの仕事ではなかったかもしれませんね。

 帰りましょうか。

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