第49話 サクヤヒメの部屋


ワルキューレとの戦いの後、俺の環境は随分と変わった。


まず…部屋が変わった。


今迄住んでいた4階の401号室から24階の2401号室に移る事になった。


此処はサクヤヒメが住んでいた部屋だ。


ワンフロア―全部が1部屋で12LDKの物凄い部屋だ。


窓から見える光景は…昔のドラマの悪役がワインを飲みながら言った『人がまるで蟻の様に見える』まさにそんな光景だ。


凄いな~ジャグジーにサウナにシアタールーム…それに15メートルの長さだがプール迄ある。


風があるから外に出られないせいか、室内に植物が埋まっているサンルームまである。


サクヤヒメが住んでいた時には1部屋しか見て無かったが凄いよ…これ。


「凄いですね」


「凄い」


明日香も麗も驚いている。


前の部屋もタワマンだから凄いのだが、この部屋は正に金持ちが住む部屋だ。


庶民の俺からしたら4階でも凄かったのにこれはまるで別世界だ。


家具や食器は揃っているし、生活には困らない。


「泰明…これ…」


「凄いな」


前はテーブルの上に無造作に札束が置いてあったが、本棚一杯に札束が本の様に詰まっている。


その横には…時計やらなにやら小物があった。


全部がブランド物だ。


「好きなのがあったら、自由に使って良いから」


「私、あまり贅沢はした事が無いから、こんなのは身につける機会はないかな」


「私も同じです」


「まぁ、無料で貰っている物だから、気にしないで自由に使って良いんじゃない? 壊しても問題ないから」


「そうね、使わないのも勿体ないものね」


「うん、自由に使って良いからね」


あるんだから使わないと勿体ない。


あれ…なんだか張り紙がしている部屋がある。


『プレゼント』


そう書いてある…


「ここに何かあるのかな?」


「今までの品でも凄いのに、プレゼントと書いてありますから…なにか凄い物があるのかも知れません」


恐る恐る開けてみると…


『アマテラス等身大フィギュアサインつき』と『サクヤヒメ等身大フィギュアサインつき』があった。


そればかりじゃない…ステージ衣装やら小物がこれでもかと沢山詰め込まれていた。


衣装は良いが…下着は流石に恥ずかしい。


「これはなんなの?」


「殺人鬼アイドルのステージ衣装…神9のですか?」


手紙があったので読んでみた。


『親愛なる 泰明 ラビットファングへ


私もいよいよ引退です…試合で華々しく散ったのでは無いので、葬式は神9だけでひっそりと行いました。


泰明のワルキューレとの戦い方を見て、私には全く才能が無いのが解かりました…だから、もう引退。


これからは普通の…あははは引き篭もりになります。


神9としての活動の全てを泰明にあげちゃいます!


嬉しいでしょう? 


もう普通の人間になったからアマテラスにも連絡したら、わたしのもあげてと良いと言っていたので全部貰ってきました。


神9のうち2人のデビューから引退までのステージ衣装一式…それに販売中止になった等身大フィギュア…最高でしょう?


辛いことがあったらその人形を抱きしめて頑張って生き残って下さい。


                     サクヤヒメ 』


う~ん…本当は神9のファンじゃないんだけどな…


でも…俺はボッチだ。


正直言わして貰えれば…神代、立花、神9、明日香、麗…これ位しか知り合いが居ない。


大した付き合いじゃないが…明日香、麗、神代、その次に付き合いがあったのはサクヤヒメだ。


まぁ親友からのエール。


そう思って大切にしておくか?


一部マニアには貴重品みたいだし…


「あのさぁ…この部屋で等身大人形みながら笑っているのは幾ら泰明でもキモイよ!」


「流石に泰明さんでもキモイです!」


焼きもちなのかな…二人はすたすたと部屋から出て行ってしまった。


たしかにそうかもな…


俺は静かにドアを閉め、二人のご機嫌を取るのだった。

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