2.夜ひと夜

 死刑執行人の夢をよくみる。今回も見た。


 夢の中でのわたしの役割は、ランダムだ。執行する側だったり、される側だったりする。


 いつから見始めたのか、よくわからない。何回か、うっすらと変な夢を見たことだけを覚えていて、緩く締めてしまった蛇口の水滴の音にふと気づくように、いつのまにかそれに気づいた。


 まっくらな夜っておもしろい。余計なものがないから。

良いか悪いかは別として、日の光の下では見えないものが見えるから。


 夢の中で、わたしは土色の壁の道を行く。あるときは手綱を握り、あるときは手綱を握られながら。


 繰り返し見ている夢なのに、どちらの役割のときも、わたしは、わたしのことがよくわからない。服装は、なにか軽い布?という程度で、相手の顔も、それどころかお互いの性別さえもわからない。


 中世の見世物のような群衆もいない。というか、他にだれもいない。

地下通路のような、土壁の道。

 姿よりも、もう気配に近い二人は、その道を淡々と歩いていく。たいていの夢がそうらしいけど、音もなく。


そして何の前触れもなく、ぽつんとあられるそれは、断頭台。ギロチンだ。


 そもそもの話、これは何の罪に対する罰なのかと、起きてみればいいたくもなるけれど、「罪人」役は、例の二本柱と、頭上高くの斜めの刃へ近づいていく。


 刃を頭上にとどめる縄は、なにか重石のようなものに括り付けられて固定されている。つまり、刃を落とすときは、その縄を切らなければいけない仕様だ。


問題は、その後。


 縄は切れた。刃は落ちた。刃とともに、なにかが落ちた。ふつうに考えれば、縁起でもない話だけど、首だろう。


 それがどれも事実なのはわかるのに、わたしはその瞬間の光景が、いつも見えない。代わりに覚えているのは、すべてが終わったあとのどちらかの、小さく笑んだ口元だけなのだ。


 なんていうか、中途半端というか、毎度いろいろ、もやっとする夢。


 差し込む明かりと、見慣れた天井が浮かんできた。

ということは、あれからいちおう、眠れてはいたらしい。枕元のデジタル時計は、7時42分だ、つまりあなたは四時間ほどは眠っていたのではと、教えてくれた。


 さすがにトイレは出たものの、面倒なので、昨日はジャージのまま寝てしまった。今日に限っては、浅い眠りの原因はわたしにけっこうある。


 思いっきり伸びとあくびをして、布団をもぞもぞと蹴る。

とりあえずジャージ以外に着替えて、顔でも洗おう。朝には朝の、それなりのわたしがいる。


 これでも働いているし、もちろん就職もしたわけだから。


 その二度の就職は、どれも失敗に終わってしまったのだけれど。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る