第190話 意地

「ねえ、まだ許せない?」


部員が帰った後の剣道部の部室で、部長の木村がそう切り出した。


「許す許さないの問題じゃないんだ。 これは…… そうだな、私が拗ねているだけなんだよ。 でも、アイツはそれさえも分かっていそうだよな」


木村に苦笑いでそう返事をしたのは松井であった。


「そうね。 柏木さんは賢いもの。 それに、冒険者になって更に成長してる」


「ああ。 アイツは入学した時から凄かったんだ。 アイツは将来を見据えて冒険者になった。それも、家の事情もあった上で先へ進んだんだ」


「もう、それが分かっているなら素直になればいいのに」


「だから私が拗ねてるだけなんだよ。 私はアイツが活躍する舞台を見たかったんだ」


「ほんと意地っ張り」


「分かってはいるんだ、分かってはいるんだが……」


「だって、柏木さんのアドバイスメモを心待ちにしてるものね」


「な、うるさい! でも、私達が、引退するまでにちゃんと向き合うから。 柏木にも謝罪とお礼をちゃんとする」


「謝罪って、やっぱり頭が硬いのよ。亜夢あむは、名前は可愛いのに」


「な、うるさい!」


木村と松井の話は夕暮れの中で続いた。



___________________________________________



「ただいま」


「あ、お姉ちゃんおかえり」


亜夢は帰宅して、挨拶をすると、ご飯を食べる妹の隣の自分の席へ腰掛けた。


母親が、亜夢の分を用意してくれ、一緒に食事を始める。


「お姉ちゃん遅かったね。 部活忙しいの?」


「いや、そんな事はないぞ」


亜夢は豚カツをヒョイと一口齧ると、ご飯をすくって口に運んだ。


「そうなんだ。なんか部活ギスギスしてるらしいじゃん。 私達の学年もなんかピリついてんだよねー」


「ん?それが剣道部と関係あるのか?」


「だって2つとも原因は柏木さんでしよ?」


亜夢は味噌汁を持った手をピクリと止めた。


「どう言う事だ?」


「なんか先生に贔屓されて調子づいてるってねー。 元々成績は良かったし、私はお姉ちゃんの懺悔を聞いてるから不思議に思わないけどさ、バイトで冒険者してる子の中には成績抜かされて不満な子もいるし、今まで目立ってなかった子が目立てば面白くない子も居るんじゃない?」


「なんだ、それは…」


「なんだ、ってお姉ちゃんも同じ様なものじゃない。 まぁ私は、お肌に傷がつくのが嫌で冒険者のバイトはしてない訳で、家の為とか、色々あるにしても冒険者として頑張りながらマネージャーもこなす柏木さんを尊敬するけどなー」


亜夢が部活少女なのに対して、星空はファッション命である。


ファッションにお金がかかるので、帰宅部でバイトをしている。


八方美人だが、意外と芯の通った性格で、自分の考えをしっかりともっている。


「私も、似た様なものなのか?」


「だってそうでしょ? 自分が勝手に期待してただけなのに、裏切られた気になって辛く当たってる」


「ちが___」


「違わないよ、私から見たら一緒。 あ、お母さんご馳走様」


食べ終えた星空は流しに食器を持っていき、部屋のある2階に上がって行った。


「お母さん、私って一緒なのかな?」


亜夢は、ご飯を食べ終わってお茶を飲んでいた母親に質問した。


「お母さんは事情をちゃんと知っているわけじゃないけどね、星空の言ってる事も一理あると思うよ」


「そっか」



亜夢は、食事を終えた後、ベットに寝転んで妹に言われた事を考えていた。


「今日、柏木が絡まれていたのはそう言う事だったのか?」


ふと、部活の時に来るのが遅かく、様子を見に行った時の事を思い出した。


「確かに、私もおんなじかも知れないな」


ハハっと亜夢は自嘲気味に笑った。


しかし、今日絡んでいた後輩たちは確か……


あの後輩達は部活で亜夢の派閥に居る三年生と仲良くしている後輩だ。


そこまで考えて、亜夢はガバッと体を起こした。


派閥などと考えてる時点で同じ穴のムジナではないか。


私が作った不和が伝染していったのかも知れない。


明日、部活の時にハッキリと柏木に謝ろう。


そして、みんなの意識を改善できる様にしっかりと話し合おう。


亜夢は、そう決意して、明日の部活の時間をミーティングにする為、木村に連絡を入れるのだった。



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