第185話 紗夜の調理場

最近は、お昼時の弁当屋のお客さんが少し増えて来た。


これは紗夜が冒険者になった副次効果と言っていい。


正確には、紗夜も風美夏もまだ冒険者ではなく、仮免許を取っただけなのだが、ダンジョンに行く様になった事には変わりはない。


ダンジョンへ行くには冒険者ギルドで受付を済まさなければならない。


そして、黎人が視察した後だった事や、身分証明に使ったりした結果、紗夜と風美夏が黎人オーナーの弟子なのは職員皆が把握している。


そして、職員の中に紗夜の弁当屋の事を知っている職員がおり、昔食べた時に美味しかったと言う情報と、オーナーへの忖度により、ギルド職員は、お昼を紗夜の弁当屋に買いに来る人が多くなった。


お昼の弁当屋を1人で切り盛りする紗夜は、お昼の時間にお弁当を作るスピードが日に日に早くなっていった。


ステータスが上がってDEX器用さAGI素早さが上がっていき、作業スピードが向上した結果である。


注文を受けた紗夜は、冷蔵庫からバットを出して、下拵えした白身フライやトンカツ、コロッケにちくわの磯辺揚げを油の中に手早く入れる。


そしてバットをしまって新しく取り出したのは、下味の漬けられた鶏むね肉と鳥もも肉だ。


小麦粉と片栗粉。それから秘密のスパイスを混ぜてあるパウダーを付けて油の中へドボンと入れた。


揚げものだけではなく、グリルに焼鮭用の鮭も入れてタイマーをおした。


次は弁当の容器に炊飯ジャーからご飯を盛り付け、並べていく。

量らずとも、長年の感覚で普通盛りも大盛りもぴったりとよそう。


時間を見て唐揚げを油切りの上に一旦出して、二度揚げのタイミング迄の時間をタイマーで入れた。


キャベツはこのタイミングで千切りにして水にさらす。包丁をくるりと回すと、目にも留まらぬ感覚で千切りにして水にさらした。

切って水にさらしておいても良いのだが、より美味しく食べてもらう為の紗夜の気遣いである。


ちょうど良く揚がった揚げもの達を油切りに取り出し、唐揚げをもう1箇所の高温の油の中へ入れるとラストスパート。


かと思いきや、いつの間にか熱してあったフライパンにハンバーグを入れた。


両面をよく焼いた所で、オーブンに入れて、今度こそラストスパート。


弁当毎に、きんぴらごぼうやポテトサラダ、自家製のたくあんを盛り付け、必要な容器にはご飯の上におかかの佃煮をちりばめて海苔を敷いた。


二度揚げした唐揚げを取り出し、油を切っている間に、ハンバーグもオーブンから出しておく。


ハンバーグと同時に、よく焼き上がった鮭も取り出して準備しておく。


そして揚がっている揚げ物、焼き上がった鮭をそれぞれの容器の中に入れて、蓋を閉める。


続いて程よく油の切れた唐揚げも容器に盛り付け、ハンバーグも容器に入れたら、ハンバーグに特製デミグラスソースをかけて、仕上げにハンバーグ用のにんじんグラッセを冷蔵庫から取り出して盛り付けた。


後は蓋を閉めれば今回の注文は完成である。


提供スピードは今までと変わらないが、ステータスが上がってからより美味しい物を提供したいと、作り置きを減らして調理する物を増やした。


その調理工程がパフォーマンスになり、待っているお客さんからは出来上がったと同時に拍手をされた。


紗夜はニコリと笑顔で答えながら「お待たせしました」と会計に移る。



その様子を毎日覗いては去って行く人影があった。


冒険者ギルドの職員は全員冒険者免許を持っており、今では新人でもランクD以上がなければ入社できない。


それが分かっている為、以前の様な下手な真似はできず、人影安保は悔しそうに去って行く。


繁盛する弁当屋に忙しい紗夜やギルドの職員達は、その事に気づかず、平和に過ごしているのだった。

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